⑪ 鈴木春信全作品目録作成のための調査研究研究者:学習院大学文学部教授小林研究報本研究の実施年度である平成元年度と平成2年度の両年に,東京国立博物館,神奈川県立博物館,奈良県立美術館,名古屋市博物館,MOA美術館,ニューオータニ美術館等の美術館・博物館,慶応義塾大学図書館,および各地の個人所蔵家(美術商を含む)において,一部を撮影し,国内に所蔵される主要な作品について,賞重な知見と大量の研究資料が得られた。また,研究代表者小林は,英国ロンドン,ポーランド国クラクフおよびワルシャワ,ハンガリー国ブダペスト,チェコスロバキア国プラハ,イタリア国ジェノヴァ,米国ロードアイランドおよびポートランドなど欧米各地の美術館に赴き,また研究分担者田辺は,米国諸都市の代表的美術館を訪れ,それぞれ在外春信作品の調査に機会を得た。木版絵本に関しては,東京,名古屋,京都,岡山,仙台ほかの諸図書館,及び東京国立博物館資料館,松本の日本浮世絵博物館等の博物館に於て調査を実施,春信はもとより西川祐信,奥村政儒,石川豊信,砥田湖龍斎など関連絵師をも含めた幅広い作品資料の収集を進めた。一方,小林が過去に集めた写真査料を基礎として,田辺収集の査料を追加,さらに出版物に掲載の図版を複写,解説をコピーするなど,既に知られている春信作品について諸賽料のファイリングを進捗させた。上記の活動を通じ,春信画風の変遷,個々の制作年代,異版,複製,偽作等に新しい解釈が可能となり,いまだ報告されていない春信の版画作品も少なからず見出されるなど,予期以上の成果がもたらされた。個々の春信作品に関する分析,検討を完了するにはなお若干の時日を要するが,近い将来に当初の計画通り写真図版入りのカタログ・レゾネを刊行すべく,精力的に研究を継続している。なお,春信全作品の個別的な研究成果に加えて,その絵画芸術総体の美術史的な意義について,二,三の新たな知見を得るにいたった。その一つは,春信版画の背景描写に関する問題で,日中の野外にあってはほとんどとその周辺画家の版画と一部肉筆画を直接調査,許される範囲で忠他ー名-219
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