常に大気や空が淡い青色に表されていることに,注目された。植物性の絵具のために現状ではほとんどの版画で薄茶色に変色してしまっているが,当初は明る<澄んだ淡青色のその背景には,新しい時代の感覚と異国的な情緒が託されていたかのようなのである。すなわち,宋紫石らを通じて沈南禎派の背色の青,平賀源内らを通じて西洋画の背色の青と,外国絵画をヒントに,俳諧で慣れた鋭敏な自然への感受性を表わそうとしたものと解釈されるのである。また,春信の版画には画中に古典和歌を記すものが多い。そこに描かれる当世風俗画に歌意を重ねて屈折した鑑賞を楽しませるという,一種の見立絵だが,本歌の検索には,当時作歌の手引書として重宝がられていた『明題和歌全集』(本研究費により購入)が活用されたらしいことが明らかとなった。そして,興味深いことに,春信は続本摺の版画「詠歌三美人」(東京国立博物館蔵)のなかで,同書を表紙に書名入りで明示しており,その特殊な作画手法について,なんら隠そうとはしていないのである。むしろ,手の内を明らかにして,見立の表現とその解釈を鑑賞者と共に楽しもうとした形跡が,明らかに認められる。ここにも,春信とこの時代が愛した俳諧精神が,脈々と通っているように考えられるのである。-220-
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