鹿島美術研究 年報第8号
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ることとなった。本調査研究はいわゆる前衛書運動を中心にして,東西交流の分野では代表的な役割を果した「墨美」誌を参考資料とし,戦後になって書道家が目指した書の現代化,芸術としての書に関して西洋美学,美術学,文化がいかなる影聾を与えたか,そのあらゆる形式,様態を分類する事を目的としている。正統派,保守派に対立して,前衛書はどういう態度を取りどのような活動を持ったか。昭和26年「墨美」誌創刊号の主張をみよう一書の美学究明を近代芸術思想の上に確立するー全美術全芸術的視野の中に書を見るを世界的規模の上に拡大する一人間全生活の中に書を見る一古典の再検解明一書の社会的地位の向上上記「墨美」誌,及び他の雑誌に発表された論文や評論の内容からみれば,書には新しい理論が必要である。中国から得た従来の書論が現代としての書に対してはもう不適当なものと考えられ,改めて新しい形には新しい考察を適応すべきとする。目的に達するには自ら西洋美学が主な参考思想となった。諸芸術に目覚め,刺激を受けながら書家が違う観点から書を考慮できるようになった。おそらく第一に証拠になる例は「墨美」誌の編集者森田子龍に誘われ掲載された京都大学教授の井島勉の美学講座であろう。上田桑鳩や森田子龍が発行した「書の美」誌に昭和25年から書研究者有田光甫宛の手紙の形で「書の美学に関する書簡」の連載を執筆した。次に「墨美」誌に掲載した「書と美学」の中で美学の基礎理論が取り扱われ,その目的の一つは書家に対する教養をもたせることであった。新しい理知的な方法で,視覚芸術としての書,文字性と抽象性,絵画の線と書の線などのテーマにふれた。実際にこのような教育にはどの様な反響があったか計り難いことであるけれども別な角度から書を構想する反省又は熟考する機会を与えた。井島教授の影響は日本にかぎらずヨーロッパにまで及んだ。「現代日本の書,墨の芸術展」(1955ヨーロッパ巡回展)のカタログにて「書の芸術的性格について」や1962年のドイツ日本書展に際して「芸術としての書」を執筆して,西欧の人たちにも書に関する-222 -

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