るのに,長期間を要することが見込まれるので,他日を期し今回は上記の二幅と第十ー軸提婆達多品,第十四軸湧出品・壽量品の墨書銘及び彩色の現状についての報告をなすこととしたい。1.第十三幅本紙の左右両端の下方に,白く彩色された短冊形があるが,左端の短冊形にはは無い。塗り潰されたのではなく,当初より書かれていないようだ。右端の短冊形の判読可能な部分は「妙法蓮華経勧持品第十三妙法蓮華経安楽行品第十四嘉暦二季丁卯九月十二日」と読める。最右端を除いて絹の欠失もなく,良好な状態を示している。尊像名を記した他の短冊銘の中には,明らかにもとの墨書の上に胡粉を塗り直して,書き直したものもいくつか見いだせるか,この部分には,そのような書き直しは認められない。ところが,その下方のかつて「画エ」と読めたという部分にはかなり絹の欠失があり,「エ」にあたる部分にはまった<絹がない。「画」にあたる部分の左側は絹が残っているが,寧ろ石偏のように読め,「画」あるいは「驚」と読むのが難しくなっている。かつて「堪」と読まれた部分も右半分に欠失がある。しかし,土偏と最下端の横棒が残っており「堪」と読むのは不可能ではない。「明」と読まれた部分には比較的絹および墨が残っているか,現状では寧ろ「癸」に近く読める(図1)。当初予想したよりも,絹の状態が悪く,残存部分を総合しても,かつて判読されたという「画工堪明」を確認するのが困難であった。年紀の書かれた短冊形の状態は第十三幅に同じである。判読可能部分は「妙法蓮華経観世音菩薩普門品第廿五嘉暦三季戊辰十一月十二日」と読めるが,その下方は,第十三幅より絹の状態が悪く,二文字目がかろうじてと読めるが,それ以外の部分は赤外線モニターによっても判読不能である。ところで,中坪久ー氏以来,宮次男氏(『金字宝塔曼陀羅』昭和五十一年),河原由雄氏(『法華経の美術』昭和五十六年)と,第十三軸と第二十軸以外について触れられることが無かったが,今回第十二幅と第十四幅の短冊形についても表面観察と赤外線モニターによる観察を行った。胡粉はかなり剥落し,肉眼では墨書が見えなかっ2.第二十幅3.第十二幅•第十四幅I -227-
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