鹿島美術研究 年報第8号
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情勢に照らして再読するほどに,寓意の辛辣さに驚嘆し,それぞれのインプレーサに登場する<王〉,<僧侶〉,く無垢の幼児〉<旅人〉,<死者〉その他諸々の人物や動植物を通して作者の意図が一層明瞭に見えてくることになるのだと言えよう。リヨンで作品を出版したジャン・マルコレルは,まもなくジュネーヴヘと亡命してゆく。この『百寓意図集』のひとつひとつを読み解いてゆくと,全体を概見したときに予想されるよりもはるかに激しくカトリック教会が糾弾されていることが理解される。教会制度を露骨に攻撃するのではなく,伝統的な象徴図像を極力廃し,見慣れた題材によって斬新な図像を構成しつつ,しかも(神聖なる真理のごとく)故意に餡II紐された寓意を通して,教会が表像してきた精神的存在形態への挑戦が試みられているのである。-237-

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