鹿島美術研究 年報第8号
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にまで,画家の非凡な感覚がこめられ,画面全体に堂々とした風格と張りがあります。このほか,花鳥・動物画としては*スライド左西瓜に都鳥図(東京・個人)*スライド右こうのとり・鶴図屏風(氏家コレクション)*スライド左桜に笠図(氏家コレクション)*スライド右雨中の虎図(太田記念美術館)などが,従来,標準作として定評あるものです。美人画としては,*スライド左二美人図(MOA)*スライド右酔余美人図(鎌倉国宝館)*スライド左手踊り図(小布施北斎記念館)*スライド右雪中傘持美人図などを,標準作としてただちに思い浮かべます。これらは,下書きから仕上げまで,制作の全過程を通じ,ほぼすべて北斎自身が手掛けたと見てよいでしょう。これらに標準作を収める中心の円収められるべき作品は,むろんほかに少なからずありますが,ZoneAに置く作品は,真疑についてすでに定評のあるものにとどめておき,北斎自筆である可能性は強いが,それが確定するまでなお議論を要するものについては,外側にZoneBを設けてひとまづそこに置いたほうかよいと私は考えます。*スライド左蟹図(フリア美術館)*スライド右雪中虎図など,私自身は北斎の傑作と考えるのですが,いまはZoneBにおいておきましょう。ぶのは,北斎の監督のもと,かれの弟子(一人あるいは数人)が制作した作品です。北斎は,その制作の一部を自身で手掛ける場合もあり,また,下図を渡して,あとは弟子に任せる場合もあります。当世の言葉を使うならば,北斎プロダクションの作品ということになりましょう。ある工房作品の製作に,北斎自身がどれほど関わったか,その度合いによって,その作品の,ZoneCのなかで置かれる場所が違ってきます。度合いが大きければ,その作品は,ZoneBとの境界線の近くに置かれることになりますし,小さければ逆に,外側をかこむZoneDとの境界寄りになります。ZoneDとは。北斎の自筆でない作品が置かれる地帯です。こうした北斎工房は,いわば想像上の存在でありまして,実際,どのようなメンバによって構成されていたか,協同制作をどのような場所で,どのようなかたちで行っていたか,という問題が,それにつきまといます。この問題についてはあとにまわZoneBの外側に,工房を収めるZoneCが設定されます。ここで私が,工房作と呼これをZoneAと私は呼びますのなかに_255-

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