鹿島美術研究 年報第8号
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あえい③ 葛飾北斎の絵画に関する国際会議についても言及されるなど,困難な鑑識の問題の解決に対する一つの方向~けなり,研究者:慶応義塾大学文学部教授河合正朝研究報フランス人工ドモン・ド・ゴンクールが,パリで出版した『北斎』(1896年刊)の中で,「地上で最も創造的な画家の一人であり,中国の絵画にその土台を持つ近代日本画の流派の真の,そしてただ一人の創始者」と評した葛飾北斎(1760■1849)は,欧米において最もよく知られた画家であり,かつ最も深い関心の寄せられる画家であることは,現在も変ってはいない。この北斎の絵画,特に肉筆画の研究に関する国際学会が,ベニス大学,コロンビア大学ドナルド・キーンセンター,北斎国際研究センター等三機関の共催により,1990年5月2日から5月5日までの4日間にわたってベニス大学を会場として行われた。この会議には,ヨーロッパ(東欧を含む),アメリカ,カナダ,日本の各国からの参加者があリ,別紙のプログラムのように19名の研究発表がなされた。日本からは,辻惟雄,小林忠,瀬木慎一,岡本祐美と私の5名が報告を行った。今回のシンポジウムのメイントピックとなったのは,結局のところ,今日なお十分な検討が行われておらず,研究者を悩ます北斎肉筆画の鑑識に就いてであった。これに関して,報告者のうち美術館に勤務する研究者たちは,主として自館の所蔵する北斎画を真聞の問題を含めながら,それぞれの立場からコメントを附して紹介され,貸な研究査料を提供されたことは,今後の北斎研究にとって大きな収穫であったことがひとまず評価されよう。また,辻惟雄氏は,世に伝えられる多くの北斎画をただ単純に真作とJ既作に分けるのではなく,「ホンモノとニセモノとの間に“北斎プロダクション”による大贔の作品があり,それを一把ーからげにしてニセモノ扱いするのは誤りである」ことを提言され,北斎の周辺には大作や細密猫写を手助けする弟子たちゃ娘阿栄のような存在のあることを考えなくてはならないことを指摘された。そして,現存する作品を具体的にあげ,その描法的特徴から「北斎の真作」,「それにつぐ作品で弟子の手の加わった可能性のあるもの」,「弟子の作品」,「明らかな隈作」に分類する試みを示された。一方,瀬木慎一氏は,問題の多い北斎晩年のいわゆる信州小布施時代の作品に就いて,弟子の関与の可能性の強いことを述べられ,その個々の弟子像手懸りなりを与えられたことは,この会議・成果といえよう。-261

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