ことに就いても述べられており,彼の旺盛な知識欲を知ることが出来る。こうして,例えぱ代表作「富嶽三十六景」のような洋風画法を日本的に援用した秀れた風景版画を生み出すことが出来たのである。このように彼の風景画から洋風画法学習の跡を見ることは,従来よりしばしば行われて来たが,わたくしは,むしろ今回の研究発表では,東洋で花鳥画として扱われて来た花や鳥を描いた図において,北斎が西洋的な視点を持つことが出来たのではないかということを考えてみた。つまり,北斎には,風景画にとどまらず日本絵画史の上で最初に西洋的な概念による静物画を描き得た画家であったと見たいのである。そこには,まず舶載オランダ静物画からの学習が想定されるのであり,その結果としてもたらされる北斎の絵画世界における「自」と「他」の対立,そして,そこにこそ,実は北斎芸術を支える創造のエネルギーといったものが潜んでいるのではなかろうかという点を特に主張することで,北斎画解釈の一つの試みとしたのである。-263
元のページ ../index.html#296