鹿島美術研究 年報第8号
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計6,000年間という長い時期にこれら特色のあまり異ならない二つの様式が続いたといァラ様式(パジャウー遺跡など)との相違点などがまだあまり明確には示されておらず,今後の調査・研究により異なった様式展開図式が提出できる可能性もある。セラ・テリャーダ様式,そしてそれとあまり相違点が明確ではないセラ・ダ・カピヴァラ様式は芸術表現として質的に高いものが認められる。私見ではあるか,これらの様式の作品と匹敵する作品群は,後期旧石器時代から新石器時代にかけてのヨーロッパ,オーストラリアなどに限られるのではないか。世界的にもすぐれた作品群であると評価でき,子細に研究すればブラジルの先史岩面画を南アメリカ大陸のみならず,世界の先史岩面画の中に歴史的・地理的に位置づけることができるだろう。その結果,根底的な問題意識としてある,古モンゴロイド系先住民の民族移動についても解明できるだろう。これら二つの様式のおもな特色は以下のとおりである。人物像は単純化されているが,ダイナミックな表現となっている。動物像のモチーフとしてはシカが多い。狩猟道具や楽器も描出されている。情景表現も多くあり,そのテーマとしては性的なもの,ダンス,集団儀礼,小動物の狩猟などがあげられる。左右相称的な構図や人物を列で表現したものもある。以上であるが,このように多様な要素を持った作品群が様式として統一的に把握できるのかどうかは今後検討すべき課題である。ギドン教授は制作年代として,セラ・テリャーダ様式が8,000年〜6,000年B.P.(before present),それに先立つセラ・ダ・カピヴァラ様式が12,000年〜8,000年B.P.という年代を想定している。これは放射性炭素法による絶対年代を合わせて考えて提出されている仮説だが,うのも批判的に考察する必要があるだろう。現時点での私見ではあるが,セラ・テリャーダ様式とセラ・ダ・カピヴァラ様式については,さらに細かい様式的な分類が可能ではないだろうか。その分類の試みの詳細は近刊の論文の中で議論を展開する予定である。今年度の別の研究課題として,先史岩面画研究における画像のデジタル情報処理についても資料収集を行った。研究所・博物館では,この方面でも研究実績をあげているが,担当の研究者,マルセロ・サウザ教授がサンパウロ近郊の本務校カンピーナス大学に戻っていたので,サン・ライムンド・ノナトでの予定を早めに切り上げて,教授を訪ねた。教授の研究室ではペルナI遺跡とパジャウー遺跡の実例によりヴィデオ・カメラでデジタル的に記録された先史岩面画の画像情報処理のデモンストレーション275-

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