2.第9回国際博物館会議保存科学部会における研究発表び16種類のアミノ酸が存在していることを明らかにした。すなわち,ブドウ糖とセロ(xerophilic fungi)がフォクシングの主因と考え,これをフォクシング要因カビと呼来する16種類のアミノ酸が存在し,なかでもy—アミノ酪酸の蓄積量が最も顕著で,こ筆者は,第9回国際博物館会議保存科学部会の生物劣化と制御の分科会で「フォクシング部位成分による人工的フォクシングの誘起」について次の研究成果を発表した。らは,これまでにフォクシング部位にLーリンゴ酸,ブドウ糖,セロオリゴ糖及オリゴ糖は紙のセルロースに由来し,L-リンゴ酸と16種類のアミノ酸はフォクシング要因カビの代謝生成物と考えられる。これらの有機酸,糖及びアミノ酸が,ある限定された範囲に共存しているならば,これらの成分間で何らかの反応が進行してフォクシングの褐色物質が形成されるかも知れないという仮説が成り立つ。その仮説を実証するために,フォクシング部位に認められる主要成分が,どのような組合せでかつどのような環境条件のとき褐色斑点(フォクシング)を形成するかの実験結果を報告した。筆者らは,これまでのフォクシングに関する一連の研究から,*絶対好桐性のカビ称している。もちろん,鉄起因のフォクシングや樹脂起因のフォクシングも存在しているか,これらのフォクシングは発現の形態などから一般に言われているフォクシングとは容易に判別できる。カビ起因のフォクシングが形成されるメカニズムは,次のように考えると合理的に説明できる。すなわち,絵画や書籍の表面には,空気中の絶対好棚性カビの胞子等及び微小塵埃が付着している。その絵画等が,相対湿度75■94%,温度20■30℃の環境に置かれていると,絶対好桐性カビの胞子等が発芽して菌糸を伸長させる。その菌糸が微小塵埃に到達すると,塵埃中に存在する養分を利用して増殖し,直径5mm前後のコロニーを形成する。絶対好桐性のカビは,繁殖する過程で有機酸やアミノ酸を代謝生成する。有機酸は,L-リンゴ酸,フマル酸,乳酸等が認められるが,なかでもLーリンゴ酸を量的に多く生成するという特徴を示す。これらの有機酸は,絶対好桐性カビが形成するコロニーの部位に数年間も蓄梢されている。有機酸が,紙と長期間接触していると,紙のセルロース繊維が徐々に酸分解され,セロオリゴ糖やブドヴ糖を生成する。また,フォクシング部位には,絶対好桐性カビに由れに次いでオルニチン,アスパラギン酸,グルタミン酸,f3-アラニン,グリシン,セリン等も比較的多く存在している。-279-
元のページ ../index.html#312