からうすみたけそうじ② 16 • 7世紀日本絵画における古典の継承研究者:東京国立文化財研究所情報資料部写真資料研究室長研究報研究をすすめるにあたり,古典主題として源氏物語を,それに対応する絵画として宗達派の作例を素材にえらんだ。1)図様の典拠をできるだけ綿密に,そして幅広くもとめること,2)テキストの絵画化の構造をさぐること,この二つを基軸にして古典主題の継承の様態をなるたけ具体的に検討するよう努めた。1については,本文との対照だけでは典拠を明らかにすることがむずかしいと考え,まず,岩波『国書総目録』・『日本古典文学大辞典』などを資源にして,南北朝から江戸時代前期につくられた源氏物語の注釈書を中心に,梗概書,翻案,俗語訳をふくめた一覧表を作成し,これを基礎作業とした。宗達派の作例は,①静嘉堂文庫「関屋澪標図屏風」をはじめとして,②原家所蔵「扇面貼付屏風」6曲1双の扇60面のうち7面,③大倉集古館「扇面流屏風」6曲1双に貼られた色紙10枚,④米国バーク・コレクションの8曲屏風1隻(9図),⑤団家旧蔵の6曲屏風1双(54図)と,⑥藤井家旧蔵の8曲屏風1隻(18図)が知られている。ただし⑤と⑥は,各図が切断・改装され,その後の行方のわからないものがほとんどである。以下,宗達派の作例のなかから,土佐派などの作例とくらべて図様の差のきわだつ例をえらび,図様の典拠をたしかめてみたい。この報告書にふれるのは,夕顔の巻と葵の巻に取材した2種5例である。1.祈疇する男と碓(巻4夕顔)仲秋の満月の夜,夕顔の宿に泊る源氏。この折のことを描く旧団家屏風(もとの屏風の右隻第1扇)には,祈蒻する男と杵をつく男とが描かれている。前者は,明けがた近く聞こえてくる御嶽精進で,御嶽(吉野の金峯山)参籠に先立ってする精進潔斎のこと。後者は,臼を地面にうめ,先に杵のついた柄を足で踏んでつく碓である。いずれも本文に登場する。大倉集古館本の色紙の例では,御嶽精進の男だけになり,これに室内の夕顔と源氏とを描いている。こうした図様は土佐派などの例にはみあたらないが,同様の図につくる例に,万治4年(1661)刊,雛屋立圃の『十帖源氏』,寛文5年(1665)刊,同じく立圃の『おさな源氏』の挿絵がある。鈴木廣之-291-
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