鹿島美術研究 年報第8号
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えで材料となるだろう。本の挿絵にうけつがれていくこと。室町時代中期以降の正統的な源氏解釈が,雛屋立圃のような貞門の俳諧師たちに継承され,これと平行して宗達派の図様も伝えられた,と想像すべきだろう。江戸時代初期における宗達派の評価にかかわる大きな問題だけに今後の検討が必要になるだろう。まとめてみると,宗達派のなかで新たな図様の創造がおこなわれたのにちがいなく,そこには同時代の生き生きとした源氏享受の様が率直に映しだされているように思う。中世から近世への橋渡しとなる江戸時代初期―この時期における古典継承のひとつの典型的なありかたがここに観察できる。それは,狩野派が御用絵師となって権力の中枢につらなり,過去を清算することによって近世への道を拓いたのとは別な方向である。宗達とその後継者たちは,上層の文化をみちびいて近世文化の広い土壌をつくりあげていく,その過程において一定の役割を果したというべきだろう。5.従来の土佐派にみられなかった宗達派の図様が,かえって,江戸時代初期の版_294

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