鹿島美術研究 年報第8号
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③ 春草作品にみられる古画の要素(平成元年度の中間報告に続く後半報告)研究者:飯田市美術博物館学芸員関根浩子研究報告:昨年度の報告では,春草と古画との関係を初期から晩年まで通覧する形で述べたが,平成2年度は,主にその画業のうちの古画模写時代に焦点を絞って調査を行ったため,本報告では,春草及び春草に関わりの深い東京美術学校出身者の古画模写作品について,作成した表を掲げ,調査結果を述べるとともに,併せてそれらにより若干の考察を試みたい。平成2年度の古画模写作品調査では,平成元年度にすでに調査した東京芸術大学所蔵の作品を除き,その他の作品の存する東京国立博物館(以後東博と略す)蔵品を中心に行った。さらに,昨年秋,滋賀県立近代美術館で催された「模写の魅力巨匠が学ぶ日本の名画」展に,奈良国立博物館(以後奈良博と略す)所蔵の模写作品が出品され,同館にも相当数の模写が存在することが推測されたため,東博と平行して奈良博の調査も行った。たまたま本年,飯田市美術博物館で開催予定の展覧会の調査(春草及び春草周辺作家の初期作品調査)と兼ねることができたため,上記二館の甚大なご協力を頂き,膨大な模写作品群の中から,春草及び関連作家の作品十数点を実見する機会を得た。また,古画模写事業による模写作品の全貌を把握するため,不完全ではあるが,実見できなかった他の作家の模写作品について,東博のそれは,『東京国立博物館所蔵品目録』より一点一点拾い出す作業を行った。一方,奈良博に関しては,同様な目録がないため,同館よりその時点で作成いただいた模本一覧の提供を受けた。上記作業の後,昨年度の報告で指摘・推測した,模写作品と古社寺調査の関連性の有無,また有とした場合の関連の仕方を明らかにするため,現在記録の残されている以下の資料との照合を行った。①明治17年の京都,奈良県調査におけるフェノロサの「京都十一箇寺什宝調査メモ」(『フェノロサ資料I』所載),②明治19年の奈良県調査における天心の「奈良古社寺調査手録」,21年の近畿地方調査における天心の「近畿地方宝物調査手録」(『岡倉天心全集8』所載),③明治21年の近畿地方調査に関して,京都の『日出新聞』が報じたものを,竹居明男氏がマイクロフィルムより抽出して編みなおしたもの(同志杜大学博物館学芸員課程「博物館学年報」13■17号に連載された,『明治二十一年近畿地方古美術調査の記録一京都『日出新聞』の記事より一』)の3資料である。そしてさらに,原本の文化財指定の有無,無指定のもので模写された作品295

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