⑤ イタリアの初期ルネサンス美術における線遠近法についての研究第10号を参照されたい。(1913), Sanpaolesi (1954), Degl'Innocenti (1978)などの研究が目立つ程度で,研究者:別府大学文学部助教授篠塚研究報告:平成2年の夏にフィレンツェに滞在し,ウフィツィ美術館の素描版画室や美術史研究所に通うことができた。とくにウフィツィの素描室でオリジナルの素描を調査できたことは貴重な経験であった。線遠近法に関連する素描を研究する場合,どうしてもオリジナルを観察する必要がある。つまりオリジナルには複製写真ではほとんど見ることのできない針孔や線状のへこみが多数残されており,しかもそれらは空間構成上きわめて重要な役割を担っているのである。今回はこうした点に注意しながらルネサンス時代のデッサンを観察したのであるが,とくにレオナルド・ダ・ヴィンチの著名な素描《マギの礼拝背景図》(ウフィツィ,436E)について予想以上に多くの成果を得ることができたので,これについて報告させていただく。なおこの素描についての研究成果の詳細は,近日中に刊行される別府大学文学部美学美術史学科『芸術学論叢』素描《マギの礼拝背景図》(16.3x 29cm)は,同じウフィツィ美術館に所蔵される未完の大作《マギの礼拝》(板絵,246X243cn)の予備デッサンであり,すでにきわめて多くの研究者により言及されてきた。しかし研究の多くは板絵とのつながりという観点にばかり目を向けがちで,この素描独自の空間構成や遠近法についての研究は,Thiisその数は意外と少ない。これらの研究者から教えられることも多いが,まだ不備な点が多い。今回の調査により新しく解明できた点のうち重要と思われるものを以下に述べてみたい。(1)上の枠について:この素描の空間構成を考える上で,まず構図全体の枠を決定することが重要となる。構図の枠は紙面の縁ではない。紙面の下の縁から1cmほどのところにスティルス(鉄筆)で引かれた無彩の切り込み線が走り,この線はまた碁盤目状の舗床の基線となっている。この基線が構図の下の枠であること,またこの基線の両端の垂線が左と右の枠となることは誰の目にも明らかであろう。しかし上の枠については,上の縁に接するようにして家屋の屋根や人物などが描かれているため,紙面の上の縁そのものが構図の上の枠であると思い込みやすい。しかし上の縁から1cmほどのところにシルバー・ポイント(銀尖筆)で引かれた直線が走っている。この線は-315
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