かすかに引かれているためオリジナルでも見えにくいが(複製写真ではほとんど見えない),左と右の枠の線と同じくシルバー・ポイントによる直線である(本素描に引かれている線のほとんどはペンとビスタによるものである)。モデュール(基本尺度)になることは容易に推測される(この基線をモデュール線と呼ぶことにする)。またこのモデュール線の長さ(ほぼ28.57cm)は,当時のフィレンツェで使用されていた長さの単位に換算すると,ほぼ0.5bracciaa panno= 6 crazie= ール線全体の長さは12Mであるが(つまり構図の横の長さは12Mとなる),(1)で述べた上の枠までの距離(つまり構図の縦の長さ)を測ってみると正確に6Mである。つまり本素描の構図の横と縦の比は12M:6 M= 2 : 1となる。さらに素描の下半分を占めている碁盤目状の舗床も,ほぼ正確に構図全体を上下に二分していることがわかる。(3)消失点の位置:画面の中央から見て少し右上にある消失点がどのような原理にもとづいて決定されたのかについては,これまで明確な解答が与えられていなかった。たとえばKemp(1981)は「紙葉の幅の黄金比にきわめて近いが,これはレオナルドが計算の上でそうなったのか,それとも直観的にそうなったのかは判断できない」と述べているが,こうした曖昧さは(1)で述べたように構図の枠そのものが曖昧であった点に起因する。ここで消失点の位置を正確に測ってみると,構図の枠(12MX6 M) の中心から右にfM,上にfMの位置にあり,この消失点はまた枠の左下隅から右上隅に引いた対角線上にあることがわかる。次にこの消失点が構図の縦横をどのような比で分割しているのかを調べてみると,横の長さを7½M:4½M=5: 3に,また縦の長さを3fM:2十M=5: 3に分割している点であることがわかる。つまり縦横ともに5: 3というきわめて簡潔な整数比に分割できるのである。5: 3 =1.666…… は黄金比の値1.618……にきわめて近い値であるが,本素描が黄金比そのものを適用しているとは言えない。おそらくレオナルドは「黄金比にきわめて近い簡単な整数比」つまり5: 3を本素描の作図にとり入れたのであろう。向かって,ほぼ碁盤目の角角を通る対角線(45度線)が4本引かれている。オリジナルでも正面から見た時はなかなか見えにくいが,斜めから観察すると複製でも比較的(2)構図の縦,横の比:下の枠となる舗床の基線は12等分されており,空間構成上の1 palmoに相当すると思われる。12等分された1区画分の長さをMとすると,モデュ(4) 4本の「平行な」対角線(45度線):碁盤目状の舗床の上には左下から右上方向に-316-
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