鹿島美術研究 年報第8号
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よく認めることができる。この対角線は空間を構成する上できわめて重要な作図の補助線であるが,奇妙なことにほとんどの研究者がこれに注意を向けていない。わずか対角線の始点や終点を明示していないし,またなぜ通常の線遠近法と異なり平行であるのか,さらに空間構成上どのような役割をはたしているのかについては全くふれていない。この対角線の役割と意義については以下の(5)と(8)でふれる。ができる。この直交線と(4)で述べた対角線との交点の位置から基盤目状の舗床の横の線つまり横断線を引くことができる。この横断線を丹念に数えてみると56本である。つまり舗床の奥ゆきは55の区画で成り立っている。しかし以下に述べる私の仮説によれば,レオナルドは当初60の区画を予定していたと思われる。[仮説の根拠]下から一番目の対角線が直交線と交わってつくられる横断線の区画数は12個であり,同じく2番目,3番目の対角線による区画数も12個である。これに対して4番目では,対角線と直交線との交点の位置を全く無視して横断線が引かれており,その区画数も10個しかない。また(対角線の引かれていない)残りの最上部では,横断線のつくる区画は9個である。以上の区画を合計すると12X3 +10+ 9 =55個となる。しかしこれらのうち10個と9個という区画数は本来どちらも12個であったと考えた方が合理的であり,全体で12X5 =60個の区画が予定されていたと思われる。紙面が小さいため,レオナルドは便宣的に10個とか9個の区画しかつくらなかったのであろう。なお60個の区画数を仮定するその他の根拠については近刊の論文を参照されたい。いるが(つまり12の区画ができるが),その左右にはどれだけの数の直交線があるのだろうか。これを丹念に数えてみると,左側に30の区画,右側に18の区画があることがわかる。つまり画面の中央を横に走る舗床の最上辺は,左から右へ30: 12 : 18 = 5 : になる。なおこの舗床の最上辺での区画のひとつの幅はモデュールMの5分の1でああった。したがって本素描の舗床を平面図に変換すると,横幅と奥行きがともに60区画の方形空間であると仮定することができる。この平面図上で考えると,舗床上の建にSanpaolesi(1954)のみが,これらに言及し,「およそ平行」であると述べているが,(5)横断線:(2)で述べたモデュール線の12等分点と,消失点とを結ぶと13本の直交線(6)直交線:モデュール線上の12等分点と消失点とを結んで13本の直交線が引かれて2 : 3の比で大きく分割され,そこには合計30+12+ 18=60の区画が並んでいることる(12Mの60等分:-M=-)。(7)平面図:直交線による区画数が60,また横断線による区画数も私の仮説では60で12 M 60 5 -317

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