造物もきわめて秩序正しく配置されていることがわかる。たとえば2つの階段のある対称形の建造物は,中心から階段の端までの距離がともに12区画(12M),奥の階段から舗床の最奥部までが12M,また手前の階段から舗床の最前部までの距離は24Mである。アーチの支柱を含めたヴォールトひとつは6M四方であり,これらのヴォールトが連続してアーケードを形成し(4Mの幅のアーチが7個と,lMの柱が8個並ぶ),その全長は36Mである。つまりモデュール線の長さ12Mの倍数や約数が,建造物においても基本的な尺度として使われていることがわかる。またこうした建造物の配置を決定するにあたって対角線のつくる5つの層が巧妙に利用されていることも指摘しておきたい。なお以上の平面図の再構成は,Deg!'Innocenti(1978)の再構成と多くの点で異なるが,詳細は近刊の論文にゆずる。度線)が引かれている。ひとつの距離点に収束しないこれらの対角線をSanpaolesi(1954) は,通常の線遠近法のくerrore誤用,licenza破格〉あるいは幾何学的厳密性を超越した画家の感受性から生まれたところのくliberta自在さ〉としている。しかし私は,独自の目的と合理性を備えたひとつの構成方法として本素描の遠近法を考えたい。レオナルドが通常の線遠近法にあき足らず,曲面遠近法やアナモルフォシスを研究していたことはよく知られているが,本素描もそうしたレオナルドの新しい試みのひとつの例証なのではなかろうか。本素描のように舗床の横断線が60区画もある場合,通常の線遠近法で作図したのでは,上部に行くにつれ横断線同志の幅は急激に密になり,作図は実際上不可能である。ところが本素描のように平行な対角線を用いて作図をすると(これは,通常の線遠近法では視点が不動であるのに対して,視点が移動することを意味してもいる),横断線の幅の変化ははるかに緩やかなものになり,その点ではより自然な視覚像が得られるのである。この構成方法を私は「平行対角線遠近法」parallel以上,今回の調査で明らかになった重要な点を,私の仮説を含め述べてきたが,オリジナルを直接観察しなければとうてい解決できない点が多々あった。この機会を与えてくださった鹿島美術財団に感謝いたします。(8) 「平行対角線遠近法」:(4)でふれたように本素描には4本の「平行な」対角線(45diagonal perspectiveと名づけてみたい。318-
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