鹿島美術研究 年報第8号
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のが存在している。これら東北地方に色濃く残存している二神型宗教造形は何に由来し,どの範囲に分布しているものであろうか。二神型の原型は磐司・磐三郎などマタギ伝説や白山信仰などにもみられ,さらには,大陸にも繋がる可能性など,極めて広い基盤を持つことが予想される。本研究は神仏像など二神型宗教造形の分布調査・個別調査を中心に行い,その種類と分布,特質を明らかにすることを主目的とし,その分析を通じて二神型信仰の系譜を探ろうとするものであり,その成果は日本人の信仰の基層を成すカミ観念の解明に寄与するものと思料される。⑨ わが国で展開した仏教説話絵にみられる表現の諸相の基礎的研究研究者:奈良国立博物館仏教美術資料研究センター主任研究官梶谷亮治研究目的:仏教説話絵の場合に問題となるのは,①経典等のテキストの性格(テキストの種類と変遷,テキストの解釈),②表現された絵画の性格(図様表現の伝統性と創造性,図様に込められた意味。他の局面に現れた同図様との関連),③テキストと絵画の関係(テキストはいかにして絵画化されたか)などである。重要なのは,テキストの展開形態(例えば,仏伝経典と仏伝文学,さらには和歌などの一時的なテキストの存在)と図様の展開形態(例えば絵因果経の図様と掛幅装仏伝図,さらには平家納経に現れた見立て仏伝)との関係の解明である。またモチーフの表す直接的意味と,イメージの作る世界における意味との関連である(より広いイメージ空間の中でのモチーフの相関関係)。すなわち,テキストと表現とは,単純な固定的な対応関係にあるのではなく,その間に様々な(文化的な)要素が重層的に,空間的に関係していることであろう。仏教説話絵は主題が多岐にわたり,永い時代にわたって展開する。これに共通して問題となるべき,テキストの解釈と絵画化の関係の問題の究明は,いったい絵はどの様にして造られ享受されたかを,われわれが考える上で,有用なことと思われる。当研究の最終的な目的は,説話絵における豊饒なイメージの解明にある。そのためには元に返って,絵とテキストとの関係が,具体的な作品に当たって一つ一つ考えられなければならない。-29 -

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