上洛の体験の中で,政宗は徐々に自らの資質に磨きをかけていった。文化の中央から地方への伝播を探る上でも,政宗が文化的に洗練されていく過程を見極めることは,意義のあることと思われる。仙台藩62万石という大大名としての財力,東北という中央からは遠隔の地に生をうけたという,ある意味での幸運,そして,鎌倉時代からの武家の家の歴史という政宗を取り巻く様々な環境が,政宗をして特殊な人物に育てあげた。中世と近世の混在一このことが,伊達政宗の好みに大きく関わり,その行動をも規定していくことになったのものと思われるが,この傑出した一人の戦国武将の美意識を探ることは,とりもなおさず,日本文化の中世から近世への移行の様をも探ることになるものと思われる。一人の武将の生き様から,文化史を見る。ある意味で大変な作業ではあろうが,生きた文化史を発掘する上でも,その作業は重要なことであると思われる。⑰ 中世武蔵の金銅仏に関する基礎的研究ー在銘資料により,その制作背景をさぐる研究者:町田市立博物館学芸員小泉充康研究目的:我国の彫刻史研究は,各地の調査活動によって支えられてきたことは,いうまでもないか,かつてはその調査も文化財指定に伴う狭い範囲での調査が中心であった。しかし,近年,各都道府県・市町村の教育委員会を中心に,寺院所在の彫刻を悉皆調査する傾向が高まり,その報告書も多く刊行されるようになった。しかし,その報告書もデータの掲載のみにとどまり,データを時代・地域・素材などにテーマをしぼって考察する段階には至っていない。本研究は,各地域の調査結果を基に,中抵という時代・武蔵という地域・金銅仏という素材にテーマをしぼって,その実態を把握することを目的としたい。また,金銅仏には刻銘を有する資料が多く,時代ごとの標準作例を規定しやすいとの利点がある。この点から,木彫史との関連性にも言及できると考えている。さらに,各地では中世遣跡の考古学的発掘や中世文書の調査も精力的に行われており,鋳造技術者(鋳物師)たちの活動が明らかにされつつある。本研究においては,この点にも留意しつつ,考古学や歴史学の成果を美術史学に応用していくことも,目的のひとつと考えている。-35 -
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