鹿島美術研究 年報第8号
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⑱ 8■9世紀のローマ・キリスト教美術における再生について研究者:新潟大学助教授近藤フジェ研究目的:を解明することを目的とする。近年多くの研究者によって建築,絵画,文芸などカロリング朝時代の文芸復興の全体像が多様な視点から明らかにされつつある。このカロリング朝ルネサンスは,過去の遺産の再現にとどまらず,新たな意味付与創造としてとらえることが要求されている。そのためには個別的な作品と流派,その個別的な芸術的,杜会的,政治的環境をあわせて,総合的に研究しなければならない。とりわけローマのレノヴァティオは,カロリング朝ルネサンスとは異なる背景を有し,その芸術的環境の特異性から見ても,単なるカロリング朝美術の一流派の現象とみなすことはできない。ローマのキリスト教美術の再生が,どのような要請で推進され,意味づけられたかを探り,作品にどのように現われているかを具体的に示し,さらにこの期の作品に共通する特質,再生すべき伝統とはどのようなものであったかを探ることによって,このレノヴァティオの意味を明らかにすることができよう。⑲ プランクーシ作品にみるエジプト「死者の書」の影響ープランクーシ蔵書にみるエジプト学との関わり一研究者:東京国立近代美術館研究員近藤幸夫研究目的:抽象彫刻の成立に決定的な影響を与えたとされるコンスタンチン・ブランクーシについては,今日まで数々の研究がなされてきた。その主なものは,その作品および,着想の起源をルーマニア民間伝承に求めようとするものである。これに対して1975年にプランクーシのカタログレゾネを著したシドニー・ガイストはプランクーシ作品を同時代の影響下に成立したものとして捉えようとした。確かにブランクーシ自身は自らの作品がルーマニアの民間伝承に由来するとは述べていない。ブランクーシを近代主義に毒されていない異郷からきた神秘的賢人とみるのは解釈者たちがつくりあげた固定的な視点といえるかもしれない。ウド・クルターマンは,ブランクーシの<レダ>について,神話解釈の混乱があると述べているが,ブランクー8-9世紀のローマのキリスト教美術を様式,図像的に分析し,この期の美術的意義-36 -

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