⑪ 室町絵巻の研究研究者:サントリー美術館主席学芸員櫛原研究目的:室町時代の絵画史は,従来,水墨画一漢画を中心に組み立てられてきた。しかし,実際には平安朝以来のやまと絵の伝統を引いた画系ーその代表が土佐派である一ーク)存在とその果たした役割も大きかったことは,本朝画史の言を侯つまでもなく当然のことであろう。特に近年,この時期のやまと絵系障屏画に対する関心が高まっている。しかし,この種の作品には落款もないものがほとんどで,その制作年代を推定することも難しい。この点絵巻は奥書によって制作年代も分かり,また詞書筆者の検討によって制作事情の推定もし易い。つまり絵巻の研究は当代絵画史を編集する上で最も基礎的な情報を提供できるものと思われる。と云うより当代絵巻の研究なくしてはこの時代の絵画史を十全通り理解できないのではないだろうか。また室町期の絵巻は,衰退期の所産とは言いながら,例えばお伽草子絵巻の出現に見るように新たな展開も示しており,美術史的研究の対象として充分魅力あるものと確信する。こうした室町絵巻を本研究では絵,詞書ともどもに検討するという絵巻研究の本来あるべき手法によって究明してみたい。これによって,まだまだ不明の点の多い,当代絵画史の全体像究明へ多少とも寄与できるのではないだろうか。⑫ ウィリアム・プレイクの「夜想」挿絵の総合的研究研究者:京都市立芸術大学助教授潮江宏ニ研究目的:『夜想』は,ブレイクの水彩画集のなかで537点ともっとも大規模な作品集でありながら,その多さもさることながら,それが大英博物館に収容されたのが比較的近年のことであること,また,『夜想』というテクストそのものの文学的な価値が今日では顧られないほど低下してしまっていること等々が災いして,断片的に採り上げられる位で不当に看過されて来た感がある。ようやく,1983年に全作品が図版となって公開されたが,これは,かなりの数の白黒版を含み,水彩画技法の観察には不十分であるだ悟-38-
元のページ ../index.html#54