単なモノグラフィーすら,満足に出版されているのはほとんどない,というのが現状である。そうした中で,ロマン主義を扱ったいくつかの国際展が過去2,30年間に僅かなから開催されてきたが,いずれも概括的な内容を主としていた。("Theromantic おける展覧会は,その意味ではフランス・ロマン主義美術に関する最初の専門的内容の展覧会であったと言っても良く,ジャック・テュイリエ教授の手になるカタログは今後の研究の出発点ともなり得べき性格を具えていた。その中では,ロマン主義美術のさまざまな源泉が,具体的な形で提示されたが,そのひとつとして風景画の問題があった。17,18世紀に潮る地誌的風景画の系譜,およびピラネージやユベール・ロベールらの作品に典型的に見られる「建築的風景」の影靱,さらにイギリスのピクチャレスク美学やゴシック・リヴァイヴァルとの関連など,多くの問題の所在が明らかにされた。本研究は,そうした問題を整理した上で再びとりあげ,個々の具体的資料を充実させることで一層の解明を計ろうとするものである。⑯ 京都西山光明寺障壁画の研究研究者:京都府京都文化博物館研究目的:1.光明寺本の整理とその公表光明寺の障壁画はその保存状態の悪さが災いしてか,これまで美術史学上で取り上げられたことはなかった。しかし本作品は元は内裏のものであったという裏付けがとれる貰重な作例である上に,狩野派の問題や画題の問題等多くの研究材料を内包しており,今後様々な角度から詳しい研究がなされるべきものである。しかるに現在これらの障壁画はその大部分が順番など関係なくばらばらに収蔵庫に収められたままである。従って何よりもまずこれらをさらに詳しく調査することによって分類,整理を確実なものとし,目録や写真をまとまった形で公表することとしたい。本作品が提起する問題の一つに,その作者であるところの江戸中期狩野派の実態を再考するということがある。かつては江戸狩野といえば粉本主義のかたまりのようにう2人の画家を別にすれば,他の作家に関しては,基礎となる作品目録はおろか,簡movement", London, 1959.; "Le romantisme dans la peinture fran<;;aise", Moscou, 1969.; "De David a Delacroix", Paris, 1974-75. etc.)。1989年度の国立西洋美術館に2.江戸中期狩野派の実像田島達也-41 -
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