3.伝承作品の整理われ,探幽以後はほとんど見るべきものがないとされてきたが江戸城の小下絵の発見以来,江戸時代後期の狩野派には探幽の影響だけではない新しい部分もあることが明かになりつつある。そのような展開の跡をたどるにはこれまでほとんど顧みられなかった江戸中期の狩野派の研究が不可欠である。本作品はそのための絶好の材料となり得るのである。京都の寺院には本作品のほかにも内裏の障壁画の伝承を持つ江戸中期頃の作品が散見されるが,それらは系統立てて研究されたことはなかった。この機会に光明寺本との比較を通じてそれらを整理し,伝承にメスを入れたい。⑰ 十八世紀江戸浮世絵における上方絵本の影響研究者:財団法人永青文庫学芸員研究目的:江戸・上方の情報網もかなりの発達をみた江戸時代十八世紀の世界にあっては,江戸・上方の文化は,個々に論じられるばかりでなく,両者を総括する研究がなされるべきであろう。本研究は,江戸浮世絵への上方絵本の影響を,調査,考察し,論文としてまとめようとするものである。すでに,江戸の浮世絵師鈴木春信が,上方の西川祐信の絵本の図柄を借用していたことはよく知られている。しかし,図柄を借用した江戸浮世絵師は春信ばかりでなく,また借用された側の上方絵本の作者も祐信ばかりでなかったことは,断片的には指摘されながらも,いまだ本格的な研究がなされていない。上方絵本が,それほど時を待たず江戸でも売られるようになったこの時期,上方絵本が江戸画壇に影需を与えたことも当然のように思えるが,特に上方絵本の内容については,浮世絵研究者の中でも,十分な情報が得られていない。そこで申請者は,できるだけ多くの上方絵本を調査し,江戸浮世絵への影響内容の全容をつかもうと構想した。この研究の成果は,江戸浮世絵の様式展開を解明するための一つの指標となるであろう。田辺昌子-42-
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