鹿島美術研究 年報第8号
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⑱ 鶴林寺の仏教絵画に関する調査・研究研究者:兵庫県立歴史博物館研究目的:「調査研究計画の要約」でも記したとおり,鶴林寺には天台寺院には不可決の平安後期の建立になる法華・常行両堂の遺構が現存しており,法華(太子)堂の来迎壁に揺かれた「九品来迎図」とともに,これらはこの時期隆盛をきたした浄土教・阿弥陀信仰の所産としての,仏教建築と絵画のむすびつきが具現化されてのこる賞重な例である。これに太子信仰という一要素か加わった宗教的背景と時代様式を中心に伝来する主要な仏教絵画は整理されている。こうしたデータの再検討と同時に,同系の有する仏教絵画群を悉皆的に調査し,基タの網羅,整理を第一の目的とする本研究は,鶴林寺もしくは播磨地方における天台仏教絵画の伝播と受容,また独自の発展のあり方といった地域性の問題をさぐるうえでの素地を固め,且つその大きな糸口を提供しうる可能性をもつ点で価値あるものと考えている。この際,当然近隣する天台系諸寺におけるありかたをも有機的に総合してゆく必要が生じるであろうが,鳥羽天皇以後歴代天皇の勅顧寺となり,近世におよんでも織田信長・豊臣秀吉•徳川家康にわたり寄進をうけた鶴林寺のこの地方にしめる歴史的位置に立脚してみても,本研究の目的と内容は意義あるものに値しよう。⑳ 古代中世障壁画の研究_建築内部空間におけるその意義と機能ー一研究者:学習院大学文学部助教授千野香織ほか1名研究目的:従来の障壁画研究がそれぞれに着実な成果を挙げてきたことは言うまでもない。しかし今後は,それらの成果の上に立って,より一層総合的な研究が行われるべきであると考える。その場合,美術史学のみならず,歴史学や民俗学など関連諸分こ野との共同研究が行われることが望ましいが,とりわけ建築史学との共同研究は最も肝要である。なぜなら,障壁画とは,本来,建築内部空間を生み出し,そこに性格を与えるべく存在しているのであって,決してヨーロッパのタブローのように,他から独立した存在ではないからである。現在は掛幅画に改装されているものも,当初は襖絵として,また壁貼付絵として制作されたのであり,柱や長押や桓と一体となって,建築内部空知念-43 -理

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