鹿島美術研究 年報第8号
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⑮ 享保期を境界とする江戸狩野様式の変容研究者:江戸東京博物館学芸員研究目的:これまで江戸狩野派は,粉本主義による規範の墨守と無個性の画派として個々の作品の検証なしに否定されてきた。近年の狩野派再評価は,積極的な作品の掘り起こしによって高まりつつあるが,狩野派の依りどころとした粉本については,その実体が明らかでない。粉本主義の制度についてはしばしば言及されてきたにもかかわらず,肝心の粉本とは何かが問われておらず,例えば,御貸し絵本と呼ばれる基本的粉本ですら具体的にどのような図様であったのか判然としないのである。今,もし享保期を分岐点とする江戸狩野様式の変容について考えるならば,その依拠した粉本が如何に移り変わっていったのか,あるいは変わっていないならば,その粉本に対する解釈が如何に変わっていったのかを捉えるのが,早道だろう。また,粉本主義は実写の対立概念として扱われてきたが,狩野派が一貫して行ってきた草木,島獣写生や地取りが,享保期以降変化したか否かも,一度検証の必要があるだろう。同様に,享保期以降興隆した画譜の出版により従来の粉本の独占をうしなった狩野派の新たな粉本編成への動きも探らなければならない。狩野派における画譜の研究は,文人画のそれと比較して殆どなされていないからである。さらに,画譜の序などにみる編纂者の意識も画論と同様あるいはそれ以上に,この問題を考える手がかりとなることを付け加えたい。⑯ 渡辺華山における作画と思想研究者:常葉学園短期大学美術デザイン科助教授研究目的:半山の作品としては,花鳥画・肖像画が比較的多く,その他,山水画,故事人物画,真景図などがある。また,日記,絵控帖,紀行,著作など自筆の手記なども多数,残されており,書簡類も多い。二十代の作品では,中国明清画の影響を強く受け,沈南禎風特色を示している。また,この時期の絵控帖には,中国明清画の模写とともに狩野派を始め,当時の画家の模写も多い。また,交際している師友としては,谷文麗,喜多武清などの画人や俳人が多く,儒学の師の名は余り多く見ない。この時代にあっては,学画が生活の大半を占め,画人として大成することを願っているようでもある。-48 -畑麗日比野秀男

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