鹿島美術研究 年報第8号
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⑱ 復古主義と宋風摂取⑲ 南宋院体画の研究一興福寺と東大寺の鎌倉復興造像を中心に一研究者:大阪市立美術館学芸員藤岡研究目的:鎌倉彫刻史研究は,近年の全国的な文化財調査の進展により,新資料の発見が相次ぎ,大いに活況を呈している。すなわち,各地方における造像活動の展開,個人作家ないし流派による造像活動の実態などが徐々に明らかにされつつあり,研究の裾野の広がりにはめざましいものがある。そうした新資料の発掘は,今後も当然続けられるべきであるが,これからは,その成果をもとにして,再び全体を見通すビジョンの構築が求められている。本研究の目的は,そのビジョンの提示を試みることにある。本研究で対象とする興福寺と東大寺の鎌倉復興造像は,当期における最もモニュメンタルな造像であり,新様式が開花した舞台でもある。鎌倉彫刻の解釈においてしばしば援用される復古主義と宋風摂取の概念も,この二大寺の復興造像に関する研究から生まれたものであると言って過言ではない。この二大寺の復興造像は鎌倉彫刻のまさに頂点に位置し,それゆえ鎌倉彫刻の全体を見通すビジョンを形成するには,その再考が不可欠な課題であると思われる。復古主義と宋風摂取という問題は,決して彫刻に限られた問題ではなく,当期の絵画,工芸意匠,さらには仏教思想についても指摘されている問題である。上述のビジョンの形成は,彫刻が芸術文化の一分野である以上,彫刻固有の問題としてではなく,当期の芸術文化に共通な地平で行ってこそ有効であるが,その意味で復古主義と宋風摂取の問題は格好の題材であろう。本研究は,以上のような目的と構想をもつが,それにより,錬倉初期彫刻の形成と展開の歴史,さらには同期の絵画や工芸,仏教思潮を考究する有効な手がかりがつかめるものと考えている。研究者:大和文華館学芸部員藤田伸也研究目的:宋代絵画は長い伝統を誇る中国絵画史上において,完成された造形性と写実性を示し,後に続く元明清時代の画家達の規範となった。唐朝以前の絵画は宋代において既穣-50 -

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