@ 宗教改革期のニュルンベルク美術とができれば,ひとり絵画史のみでなく,書跡や漆工など他の美術史の分野,ひいては国文学史の分野においても時代判定の基準として用いることが可能となるであろう。合わせて,武術秘伝書の系譜を編むことができれば,歴史学への寄与も期待できる。ーファイト,ジュトスの「バンベルク祭壇」をめぐって一研究者:山形大学教養部助教授元木幸一研究目的:従来ヨーロッパの都市における美術というテーマは,高階秀爾氏の『フィレンツェ』(中公新書),石鍋真澄氏の『聖母の都市シエナ』(吉川弘文館),青柳正規氏の『古代都市ローマ』(中央公論美術出版)などイタリアを中心に充実した研究が進められてきたが,ドイツに関しては,我国では,ほとんど美術史の立場からのアプローチがなされていない。私は,数年来,中世末から近世にかけてのニュルンベルク美術史の研究を進めている。拙論「帝国都市ニュルンベルクとデューラー」においては,デューラー作品を手がかりとして,皇帝の都市としてのニュルンベルクという側面に光を当てようとした。しかし,そこでは都市社会における宗教美術の機能という重要な側面についての考察がいまだ不充分であった。そこで,本研究の目的は,宗教改革期に宗教美術がいかに制作され,またいかに評価されたかを『バンベルク祭壇』を例として具体的に探究することで,都市生活における宗教美術の意味を解明することにある。さらに『バンベルク祭壇』をとり上げるには,もう一つの理由がある。従来,宗教改革の中での美術を論じる場合には,改革派の立場の美術作品が主に対象とされてきた。例えば,前川誠郎氏によるデューラー作『四使徒』や海津忠雄氏によるクラーナハ作品の研究などである。ところが,本研究の対象である『バンベルク祭壇』はニュルンベルク宗教改革運動のさ中で,それに対立するカトリック側のイデオローグの一人であったアンドレアス・シュトスの注文になる作品である。作者の息子で,修道院長でもあったこのアンドレアス・シュトスの宗教的立場が,この作品にどのように反映しているかを探ることで,あまり顧みられたことのない宗教改革期のカトリック側の立場をも考察の対象とすることになる。この意味で,私は,『バンベルク祭壇』がデューラーの『四使徒』と表裏をなすもの,対をなすものとして考察されるべき重要な作品であると考えている。-52
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