鹿島美術研究 年報第9号
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⑪ 狩野派の初期風俗画研究つ7面の洛中の風俗を描く扇面に着目し,狩野松栄直信の印である「直信」印をもと研究者:出光美術館学芸員黒田泰三『国華』785号において紹介され,その後所在が不明となっていた(アメリカに渡っていたらしい)扇面貼交屏風が,このたび日本で確認された。現在出光美術館所蔵となったこの屏風には,24面の扇面が貼り交ぜられているが,『国華』では,40数面と紹介されており,数は一致しない。しかし掲載された図版と現状の扇面とは一致するものがあるので,おそらく『国華』誌上紹介後,改装されたものと思われる。おそらく現状にはなく,『国華』の図版には掲載された「清水寺図」,「鞍馬寺図」,「石清水八幡宮図」などは,その際に失われたものであろう。現状扇面のうち,全開は18面である。その画題の内訳は,洛中の風俗を揺く7面,花鳥5面,人物3面,物謡山水,動物各1面である。そのうち印章のあるものは,「秀頼」印を捺す「桃花小禽図」1面と,同じ「直信」印を捺す「洛中風俗図」3面である。本報告では,これらのうち「直信」印を捺す「洛中風俗図」を含め,同じ作風をもにして,狩野松栄周辺による風俗画制作の一端を紹介したい。そこで,この7面を以下のような手順によって分類し,そののち簡単な考察を試みてみたい。印章本扇面に捺される「直信」印は,基準印とされる狩野松栄筆「花鳥図屏風」の「直信」印と一致する。景観場所が特定できるものは次の3面である。「嵐山渡月橋図」(「直信」印),「上賀茂杜図」(「直信」印),「嵯峨釈迦堂図」(無款)。他の4面には寺院を描〈ものなどがあり,そのうち1面には「直信」印を捺す。構図7面のいずれもが,画面上方から中央に向って金雲がたち込めており,それによって景観に複雑な遠近感をもたらしている。これはたとえば,神戸市立博物館などに分蔵されている「元秀」印を捺す扇面の洛中名所絵の形式的な画面の上辺,下辺に配さ88

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