鹿島美術研究 年報第9号
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⑫ 戦国大名にみる美意識2.政宗と古歌・古典首,古今集から2首,千載集から2首が引用される他,拾遺集•新後撰集・新千載集・_和歌・狂歌と仙台地方の絵画を中心に一一研究者:仙台市博物館学芸員調査研究内容及び成果1.調査の方法伊達政宗(1567■1636)は,自筆の書状の残存例の非常に多い戦国武将の一人である。彼の書状は全国各地に存在し,彼に関わる文学作品もまた,各地に残されている。即ち,政宗をテーマにした調査研究は,全国的レベルのものでなければ,その全容は把握しえないはずであるが,今回の調査としては,当初予定していた全国的な調査を前提としたアンケート調査等の実施は見送ることにし,仙台市博物館所蔵資料の精査といままでに所在が判明していたものの,なかなか調査に培手することができなかった資料を中心に行うことにした。文字を書くことを好んだ政宗は,書と絵画を融合させた作品や,古歌や古典をとりあげ,自らの文学観を記述した作品を数多く残している。これらの作品群の中から,政宗が取り上げた古歌や古典をあきらかにすることにより,政宗の美意識が窺えるはずである。①萩鹿図屏風四曲一双紙本金地著色重要美術品指定仙台市博物館所蔵寛永五年(1628)に完成した,伊達政宗の隠居所として造営された若林城(仙台市)の襖絵の遺品と伝えられる。萩や薄などの秋草と鹿を揺くが,画面の大部分を金雲が覆い,その金雲の隙間に水流と土披の一部を覗かせる。この金雲の重なりの上に,和歌や禅語を書き散らしており,和歌の一部が秋草にかかることもある。絵は仙台城の建築にたずさわった狩野左京系の絵師によるものと思われる。和歌は新古今集から3拾遺愚草から1首ずつを引用,また源氏物語若紫の一節,禅語などが書き込まれる。②菊花図屏風四曲一隻紙本金地著色重要美術品指定仙台市博物館所蔵様式や引手痕の存在により,若林城の襖絵の遺品と考えられている。画面に大きく菊花と薄を配し,その背景の金地に和歌などが書き込まれる。一部の和歌は菊花と菊花の間の金地にまで至り,更に,胡粉を高く盛り上げた菊花にかかることもある。絵小井川百合子-92 -

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