4.政宗の美意識和歌・狂歌そして絵画資料を駆使して,戦国大名である伊達政宗の美意識を探ろうとするのが,今回の研究テーマであった。ここに,美意識を探るための重要な情報を与えてくれる資料がある。ー関市図書館所蔵の伊達政宗筆扇面には枕草子のパロディが記される。扇面の裏面には緑青で山葡萄の絵が描かれ,「にくき物」「おほくてわろき物」「むつかしき物」「しらぬ事世におほし」「まことなき物」「久しからぬ物」「ねもなき物」「うれしき事」と,清少納言の主張に対して,政宗が考えたことを自らの言葉で記している。例えば,枕草子二十八段「にくきもの」に対応して,政宗は次のように反論する。かみそりとて,そりくつのまじりたるにくし。心ちれいならぬとき,ねんとするにおこす人,くりかけたる文を人のきてくり返しひきちらす,ねすみにさうしくはれたるは,いふはかりなくにくし。物しりかほしてわかきものの利口する,身のほとしらて物かきおくも又にくし。また,枕草子二百三十三段「おほきにてよきもの」に対しては,真っ向から「おほくてわろき物」と対抗する。内容は以下の通り。酒のとき,さしもなきさかなのおほき,かずのおほきは尚わろし。食事にしほのおほき,会席にかうしけくたくもわろし。花にあほはのおほき,又庭の雪,物かくにひき事のおほきこそなをわろけれ。しもざまの身に仏道修行のおはき絶ずしてわろし。このように,清少納言に対抗する政宗ではあるが,一方で「をんななれとも,このはなにほひふかく,心の泉きよくして,よく物のことわりをしれるものなるべし」と彼女を賞賛することを忘れない。政宗は徒然草や枕草子,源氏物語などをいつも身近においたという。このような日々の文学への研鑽が,たとえ小品ではあっても,枕草子の美意識に異論を唱えるようなものを書かせることになった。名著枕草子をこのように政宗流に書き改めてしまう所に,下剋上という杜会風潮を体験し生き抜いてきた者にのみ許される物の見方,考え方があらわれているといえるのではないかと思われる。今回の調査では,残念ながら,政宗の美意識の全容を把握するまでには至らなかった。今後ともこの研究調査は続行し,いずれはその全容を明らかにしたいものと考えている。-96 -
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