⑬ 中世武蔵の金銅仏に関する基礎的研究•金井遣跡B区(坂戸市大字新堀字金井)_在銘資料により,その制作背景をさぐる一一研究者:町田市立博物館学芸員小泉充康現在の東京都・埼玉県・神奈川県にまたがる旧「武蔵国」では,近年各都県・市町村の教育委員会等か実施した文化財調査により,古代より近代に至る仏像彫刻の作例が報告されつつある。その中には金銅仏の作例も見受けられ,特に中世のものとしては,善光寺式三諄を中心に小金銅仏の作例が多く知られている。これらの金銅仏は概ね素朴な造形の像が多く,そのことが却って在地の鋳造工房の存在を暗示させて興味深いが,現在に至るまで中世金銅仏の鋳造をつかさどった鋳造技術者(鋳物師)たちの活動状況を明確にする賽料は,金銅仏をはじめとする金工品の銘文が主なものであった。本研究においては,旧「武蔵国」の金銅仏の所在調査を進めることを主眼としたか,その制作に携わる鋳物師とその工房についての査料収集をも行ってみた。具体的には,近年各地で盛んに発掘されつつある中世遺跡のうちに鋳造遣跡と考えられるものが見いだされることから,その発掘状況により,中世鋳物師と金銅仏との関係を考察した。本報告では,若干美術の分野から外れるかもしれないか,中世武蔵の金銅仏研究の特異なアプローチとして,鋳造遣跡と金銅仏鋳造との関係を中心に述べてみたい。近年発掘された旧「武蔵国」内の鋳造遣跡は,主に次にあげる通りである。[埼玉県]・台耕地遺跡(大里郡花園町黒田)出土品=獣脚鋳型(9■10世紀)・大山遺跡(北足立郡伊奈町小室)出土品=精錬炉・獣脚鋳型(平安時代)・猿貝北遺跡(川口市安行)出土品=鋳型・出土品=仏像鋳型・鍋鋳型・梵鐘鋳型(13■14世紀)[神奈川県]・深田遺跡(横浜市栄区上郷町)-97 -
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