オヴィディウス「転身物語」,アッシジの聖フランシスコの「太陽の賛歌」などの古典とならんで,アポリネール,ブレーズ・サンドラール,オザンファン,アンドレ・サルモンなどキュビスム系のものから,トリスタン・ツァラ,ピカビア,デュシャンなどのダダに属するものまで当時前衛と目されていた評論や著述が何冊も見られる。さらには,ベルグソン,H.ポアンカレ,lJ.ルソーなども何冊か持っていた。これらすべてを自分意思で買い精読していたかは別としてもブランクーシの興味の広さを推し量るには充分といえよう。いままでブランクーシは,一般に世間から離れ超然と生涯を送ったかのようにいわれることが多かったが,このように身辺の資料を丁寧にみてゆくと実像はそれほど単純なものではなさそうである。研究者によってはブランクーシ研究ではまだ手か付けられていない部分が数多く残されているともいう。1995年にはパリの国立近代美術館で大規模な回顧展が計画されており,またそれと期をあわせるようにプランクーシに関する賽料のデータベース化も別のところですすめられているという。ブランクーシは今後もまだ新たな発見が期待できる対象といえるだろう。今回このような調査に着手するにあたり肱島美術財団からいただいた援助にあらためて感謝の意を表したい。-109-
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