鹿島美術研究 年報第9号
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⑯ フランス19世紀絵画における「楽園」のテーマー一新印象主義を中心に一一19世紀フランス絵画では,「楽園」や「理想郷」,「ユートピア」をテーマにした作品100周年の展覧に際しても,決定的な回答は得られていない。1. グランド・ジャット島の日曜日の午後研究者:武蔵野美術大学非常勤講師坂上桂子が少なからずある。技法,思想を超えて,ひろく取り上げられたこれらのテーマを追っていくと,その背景に,人びとの生活や社会情勢が読み取れるばかりか,当時の芸術上の問題や,絵画の大きな流れまでもがあきらかにできることが期待できる。本研究では,この主題をとくに梢極的に扱ったスーラをはじめとするいわゆる新印象主義を中心に,印象派やフォーヴィスムといったその前後関係にも配慮し,問題を考察した。なお,1991年は,新印象派の開祖ジョルジュ・スーラの没後100年にあたり,フランス本国において死後はじめての大規模な回顧展がパリのグラン・パレで開催された。何点かの大作を欠いたものの,小品,デッサンを含め大々的に開催された初の展覧は,スーラ像を概観するには,かつてない規模のものであったといえよう。今回,この展覧,およびグランド・ジャットにおける現地調査が本研究において重要な意味を担ったことをとくに記しておきたい。新印象派の作品を扱うにあたり,まずはその代表作ジョルジュ・スーラ作くグランド・ジャット島の日曜日の午後>(1884■86)が,ことさら重要になってくることはいうまでもない。が,問題は,考察の出発点にあたるこの作品の解釈について,いまだ統一的な見解がだされていないことである。当作品の主題については,「ユートピア」的世界とみるか,「アンチ・ユートピア」とみるか,正反対の見解が提出されたままで,筆者はこの点について,本研究において前者の見解をとることをあらためて確認した。結論は,おもにグランド・ジャット島の地理的な問題と,以下に考察するその他の新印象派の画家の作品との比較検討から導きだされた。地理的な問題において重要なのは,グランド・ジャットがセーヌの中州であり,であったということである。当時とても人気のあった行楽,舟遊びのメッカとして知られたこの島は,全長わずか2キロという小さなものだが,自然のままの森におおわ-110

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