3.その他周辺の画家たちの作品マティスにも,これにきわめて近い主題の作品がある。<豪奢,静寂,悦楽>(1904)は,サン・トロペにシニャックと滞在中マティスが手懸けた点描による代表作である。マティスもここで穏やかな海辺を背景に,人びとのくつろぐ光景を揺きだしたが,ここでは,ほとんどの人が何も身にまとっていない。ピクニックの情景など,同時代の行楽を思わせる要素も一部にあるか,ここでも,主題は,同時代や未来というよりは,古代の理想郷的な様相が色濃い。その他,新印象主義やマティス周辺の後のフォーヴィストたちの作品にもユートピアを思わせる世界をテーマにした作品が何点かあるが,いずれも,古代のアルカディアを初彿とさせる作風のものがほとんどである。スーラをはじめ,これら新印象派が一番大きな影聾を受けたと思われるのは,ピュヴィス・ド・シャヴァンヌである。とくに,<夏>(1873),<聖なる森>(1884)といった作品は,直接の霊感の源となった作品であると指摘されることも多い。これらの作品では,いずれも,古代風の舞台設定のなか,時間,空間,杜会習慣等をこえた普遍的な理想の世界が展開されている。新印象派以前の作品としては,ほかに,アングルの<黄金時代>(1862),パプティの<幸福の夢>(1843)等があげられるが,ともに,作風は古典的様式に頼っている。印象派は,同時代のなかに人びとの幸福な集いを見いだしたが,なかでもルノワールのくムーラン・ド・ラ・ギャレット>(1876)は,現代の行楽を,記念碑的に大きく取り上げることによって,同時代の幸福なひとときを大々的に捉えている。が,実際に友人の肖像を多く取り入れた作品は,ュートピア的世界とはよべても,普遍的なユートピアそのものとはいえないだろう。また,ゴーギャンは,く神の日>(1894)において,具体的に理想的杜会を描いているが,彼のタヒチ行きは,それそのものが楽園を求めての現実逃避であったわけで,その意味では,タヒチにおける作品すべてが楽園や理想郷を描いたものだということもできよう。このように,新印象派を中心に19世紀フランス絵画で表現された「ユートピア」,「楽園」,「理想郷」をみてくると,これらの作品を,おもに以下のように分類できる。-112
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