⑬ 18世紀フランスにおけるフランドル・オランダ絵画のコレクション18世紀フランスにおいて,北方の絵画,とりわけ17世紀フランドル・オランダの肖研究者:帝塚山学院大学助教授島本像風景,風俗,静物など,ジャンルと呼ばれた小型のタブローかひじょうに愛好されたことは広く知られている。18世紀が「フランドル趣味」と呼んだ北方の絵画へのこの愛着は,摂政オルレアン公の文化開放政策を機にしだいに熱を幣びていくようになり,世紀の中葉あたりになると一種のブームといった状態を呈することになる。以後,フランドル・オランダ絵画趣味は,古典趣味の復活する祉紀後半にかけても衰えることかなく,さらに,世紀末,革命期においても,J.=Bルブランによるフランドル・オランダ・ドイツ圃家の大圃集(1792-96)の成功を見てみれば,この趣味が持続していたことがわかる。そして,この18世紀全体を裂う「フランドル趣味」が世紀の絵圃観や画家の剖造に深い作用を及ぱしたことは言うまでもなく,時代の文献は「フランドル振り」「テニールス風」「レンブラント風の」「ワウウェルマンのジャンル」の表現を頻繁に用いながら,18世紀フランス圃家のとりわけ「ジャンル」画を形容し,そうした作品の歴史的アイデンティティーと価値の根拠を示そうとしたし,また圃家たちもそうしたことを謡識し,フランドル振りをベースとして新しい「ジャンル」圃を制作していったことは,ワトー,ランクレ,ブーシェ,シャルダン,グルーズ,フラゴナールなど多くの画家に明らかである。しかし,こうした18世紀フランス絵画にとってもっとも重要なファクターである17世紀のフランドル・オランダ絵圃か‘,フランス(パリ)にどの程度,またどのような画家と作品が流入,流通していたのかの実態についての詳細な研究やデータはこれまでに存在していないといってよい。本研究はこの浸透の基本的なデータを作成することを狙いとするものだか,今回はその第一段階として,すでに研究されているピエール・クロザのコレクションなどを除いたコレクターたちの17世紀フランドル・オランダ絵圃所有の実態と,加えて,そうした絵画を扱った圃商たちの活動内容を,美術品の売立て目録を通して把握するための調査を行った。調査は,目録をもっとも多く所蔵するパリの国立図書館において1991年9月中旬から10月中旬のほぼ1ヶ月かけて行われた。もちろん,調査対象である売立て目録の最は多く(革命期までと区切ってみれば,18世紀に行われた美術品売立ての件数は,目録が作成されたもので1100浣117-
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