鹿島美術研究 年報第9号
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できるか,その内容の分析からは,18・世紀フランスがフランドル・ブームの過程でこの流派の絵画言語を分節化しなから新しい絵圃観を醸成していったことも具体的に確認しえた。加えて,今回の調査で確認できた事実や,興味ある問題をいくつか筒単に指摘しておきたい。「フランドル趣味」ブームの発火点となったのは1737年のヴェリュ伯爵夫人のコレクションの売立て(4分の3あまりをフランドル・オランダ派が占めていた)だったが,しかし世紀前半は,クロザ(1)やタラール男爵(3)のようなイタリア派を中心としたオーソドックスな絵画コレクションかまだ健在であったと言える。が,世紀が進むにつれ,そうしたコレクションがしだいになくなり「フランドル趣味」がコレクションの中心となっていくことは上のリストからも理解できるし,さらに,小コレクターになればフランドル・オランダ絵画の占有率はずっと上がってくることも確認できた。また,画家たちが17世紀のフランドル・オランダ絵画をひじょうに愛好していたことが分かるが(6,8, 10, 16, 20),それは「フランドル振り」を強く意識した画家たちだけではなく,たとえば,ローマのフランス・アカデミーの校長を長く勤めたド・トロワのような画家(6)にあっても,そのコレクション(ただし,それは死後直後に売立てに出されたのではないので,そこには相続人の取得したタブローも混じっている)に「フ10 フランソワ・ブーシェ(71年)36%(168点)(4 %, 48%) 11 ショワズル公爵(72年)78%(147点)(3 %, 16%) 12 デュ・バリー伯爵(74年)68%(134点)(7 %, 28%) 13 ブロンデル・ド・ガニィ(77年)48%(330点)(10%, 29%) 14 ルブラン(78年)53%(130点)(20%, 31%) 15 ランドン・ド・ボワセ(77年)56%(248点)(9 %, 34%) 16 ペーテルス(79年)63%(109点)(13%, 24%, 24%) 17 コンティ公(79年,二回目)49%(186点)(24%, 26%) 18 トロンシャン(80年)53%(135点)(15%, 36%) 19 ピエール・レミ(81年)78%(181点)(11%, 11%) 20 ランクレ夫人(82年)58%(110点)(0. 42%) 21 ヴォドルイユ伯爵(84年,87年)40%(198点)(12%, 44%) 22 ニコラ・ボージョン(87年)45%(157点)(10%, 36%) 17世紀フランドル・オランダ絵圃の餃透はこうした筒単なリストからだけでも確認-119

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