鹿島美術研究 年報第9号
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⑲ 十八世紀江戸浮世絵における上方絵本の影響ト(1680~1763)を中心に,それに続く周辺作家として月岡雪鼎(1710~86)•西川祐先行して活躍した奥村政信(1686~1764)•石川豊信(1711~85)の作品,特た研究者:千葉市美術館開設準備室田辺昌すでに江戸の浮世絵師鈴木春信(1725?■1770)が,春信活躍以前に没していた上方の浮世絵師西川祐信(1671■1750)の絵本の図柄を借用して作画していたことはよく知られており,筆者もこれまで多くこの点に集中して研究してきた。しかし図柄を借用していた江戸の浮世絵師が春信ばかりではなく,また借用された側の上方絵本の作者も祐信ばかりでなかったことについては,断片的に指摘されなからも本格的な研究はなされていない。上方絵本かそれほど時を待たず江戸でも売られるようになり,江戸・上方の情報網もかなりの発達をみた江戸時代18世紀にあっては,江戸・上方の文化を個々に論じるばかりでなく,両者を総括する研究がなされるべきでもあろう。本研究では,特に18世紀前半の上方絵本を調査して,その江戸浮世絵への影評内容を明らかにしようとした。特に上方絵本では西川祐信・橘守国(1678■1748)・大岡春叩(?〜1758)・下河辺拾水(?〜窪政末期頃)らの絵本についてもできるだけ調査した。また影評下にあったと思われる江戸浮世絵師の中でも,明和期に第一人者となっに宝暦期の作品については丁寧に検討した。その結果上方絵本からの図柄の借用は,春信以前に,またそれ以降もかなり行われていたことが確認でき,上方絵本は江戸浮世絵の発達段階に多大な影開を与えていたということができる。『続浮世絵類考』の西川祐信の項に「宝暦・明和・安永の頃迄大いに世に行なはる」とある記事が,江戸における祐信の人気の高まりが祐信没後宝暦年間に本格化したことを謡味するという指摘があるとおり,上方絵本が普及し,図柄の借用が多く行われだしたのはこの頃であるらしい。例えばこの宝暦頃に祐信の絵本の図柄を借用して作画している絵師として奥村政信,石川豊信,西村重長,鳥居清満,烏居清広などの版画中心の絵師のほか,肉筆画専門の川又常正,宮川ー笑の名を挙げることができる。つまりこの時期の人気浮世絵師がこぞってこの作画方法を用いていたのである。また,この時期の江戸の女性風俗絵本については,単に図柄だけでなく,体裁も祐信の絵本をもとに整えられたと考えられ121-

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