鹿島美術研究 年報第9号
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⑫ 大阪における異形式仏像の研究研究者:堺市博物館主任研究員吉原忠雄大阪府の仏像については,京都府・奈良県・滋賀県に比べて,量的,質的に劣るかもしれないが,珍しい形式の作品が多いという印象を,過去15年間の調査を通じて持っている。本報告は,大阪府における異形式像3例についての調査・研究についてである。まず,高石市光月院の本諄阿弥陀如来坐像は,金銅仏を木彫仏に写したと考えられるもので,技法の上での異形式像としてとりあげた。資料調査は,写真撮影そしてX線撮影を行なった。この像は,報告者が同市教育委員会の依頼を受け,昭和63年から平成2年の3ヶ年に実施した仏像調査の折に発見し,『文化財調査報告書高石の仏像』(平成3年3月)に,簡単に紹介を行なったものである。本像は,螺髪を貼り付け,僧祇支・大衣を着け,腰帯を正面で結び,両掌を前にして第1• 2指を捻じ右足を前にして結珈践坐する。像高61.1cm。クス材と思われ,彫眼,漆箔仕上げである。厚い漆箔のために構造は不明であった。この服制の像は,中国・朝鮮にあり,日本でも上代にのみ見られるものである。奈良・法隆寺金堂本諄釈迦三尊像の中聰,同薬師如来像などの金銅仏に例が多い。これらの中でも本像は新潟県医王寺の銅造伝薬師如来坐像によく似ている。これは白鳳時代の作として,重要文化財に指定されている。大衣の端を右肩の中央で留めていること,腹部正面で結んだ紐の形,膝前に垂れる腰帯,膝から腰帯にかけての数条の衣文線,背面左肩から右脇に収束する衣文線,右側面の衣端に見える波状曲線,背面・側面の地付き部に表された小さなうねり,後頭部の髪際中央の大きな切れ込みなど,両像は非常によく似ている。しかも体部は起伏のない面構成で,衣文線などの彫刻線は垂直に刀を入れており,様式・技法まで共通している。このように大変よく似ている両像であるが,面部の表現は大きく異なっている。丸顔で笑っているような,あどけない表情の医王寺像に対して,光月院像は面長で眼はつり上がり,口は固く結び厳しい表情である。横顔はやや暗い印象を与える。平面的で抽象的なかの像の耳に対して,光月院像のそれは立体的で写実的である。強い調子の耳の表現である。また,後頭部の貼り付けの螺髪の全体の配列をみると,後頭部中央から左右に弓の弦状の曲線が広がって行く平安後期か-188

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