門出遊・出家鍮城・降麿•初説法など托胎から説法までの諸場面が描かれる。剣神杜以上に述べてきた涅槃変相図・八相涅槃図(仏伝涅槃図•仏伝涅槃変相図)の諸作B.画面の左右下辺に区画線をいれて当麻曼荼羅図の様に画面を区切り,そこに涅槃② 岡山・自性院安養院,岡山・遍明院,京都・万涛寺に伝わる諸本のグループであり,釈雌の入滅の場面の他に,純陀供養,虚空示現,再生説法(金棺出現),聖棺不動,聖棺巡回,迦葉接足,分舎利といった諸場面が描かれる。以上の二つのグループは場面の配置法がよく似ているが,場面の選択が異なる。すなわち,①のグループには再生説法の場面が描かれておらず②のグループには再生説法が描かれている。前後の多くの場面を揺き込んだ作例。すなわち,仏涅槃図を中心に描いて左右辺に区画線を入れて各場面を描く形式であり,広島・浄土寺,愛知・真珠院,熊本・広福寺に伝わる涅槃変相図を挙げることができる。浄土寺本は,迦葉接足や再生説法など多くの場面が描かれているが,必ずしも全ての場面が解釈されているわけではなく再検討を要する作品である。真珠院本については後述する。次に,八相涅槃図は現在先に述べた涅槃変相図も含んだ意味で使用されることがあるが,本来は中央に大きく仏涅槃図(あるいは涅槃変相図)を描いてその左右辺に釈腺の生涯を表す釈迦八相図(いわゆる仏伝図)を添えたものをさし,正しくは釈迦八相涅槃図と呼ぶものであろう。ただし,わが国では「釈迦八相」という言葉は,釈諄の生涯から選択した八つの重要な事績を意味する訳ではなく,特に八つの事績に限らない広範な仏伝を指すことが多く,慎重に使用するべきであろう。すなわち,八相涅槃図は仏伝図付涅槃図(以下仏伝涅槃図と呼ぶ)あるいは仏伝図付涅槃変相図(以下仏伝涅槃変相図と呼ぶ)と呼び替えることが可能である。先に挙げた涅槃変相図は数多くの作例が知られているが,仏伝涅槃図あるいは仏伝涅槃変相図はそれほど多く伝わっている訳ではない。仏伝涅槃図の例としては福井・剣神社,兵庫・高蔵寺,東京国立博物館に伝わる諸本,仏伝涅槃変相図の例としては鹿児島・龍巌寺に伝わるものが確認されている。左右辺に描かれた仏伝図は,何れもよく似ており托胎・誕生・四本や竜厳寺本は,一辺がニメートルを超える大幅である点が興味深い。現在のところこうした仏伝涅槃図あるいは仏伝涅槃変相図の遺品は少ないが,今後この形式の遺品が新出する可能性は大きい。例のうち,愛知・真珠院に伝わる涅槃変相図はこれまであまり知られることがなく,これまでにみられない特徴を備えた興味深い作例であり,本研究の一つの成果として-198-
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