水を用いて微妙清浄に洗い供養しているところ,すなわち宝棺供養の有様を絵画化したと考えることが適切と思われる。左辺中場面には,遅れてやってきた大迦葉のために釈尊が棺から両足を出す場而(迦葉接足)が描かれるが,これはわが国の涅槃変相図にしばしば描かれる場面であり,浄土寺本によ〈似た表現をとる。右辺中には,替蒻・比丘・犬たちか見守る中,棺が勢いよ〈燃えている荼毘の場面が描かれている。棺か炎に包まれている表現は,わが国の涅槃変相図においては,耕三寺本などに描かれる迦葉接足の場面に表されているが,単独で荼毘を抽<例は珍しい。荼毘の場面のすぐ上には分舎利の場面が描かれる。分舎利の場面はわが国のほとんどの涅槃変相図に抽かれているが,ここに描かれる舎利容器が西大寺にある国宝の金銅透彫舎利容器に似ており,六角形の宮殿型の屋形に宝珠のように半円形に盛り上がった容器を入れている点は興味深い。真珠院本の制作年代については,釈腺が肉身部を金泥で衣部は黄土地に金泥を用いる悉皆金色で表される点,比丘の顔貌や胸.腕などの肉身部におけるごつごつした顔の形や骨ばった胸などリアルな表現,さらには左右辺に描かれた説話的場面における菩薩や仏弟子や俗形人物たちの表現や山岳・樹木といった自然表現を考慮すれば,鎌倉時代後期から南北朝時代,すなわち十四世紀の制作と考えて差し支えない。真珠院本涅槃変相図は,これまで知られてきた涅槃変相図にさらに新しい形式と特徴を持つ作例を加えることになり,その研究に一石を投ずることと思われる。涅槃変相図あるいは八相涅槃図の研究は,今後個々の作例についての場面の解釈や様式・技法・制作年代といった基礎的な検討作業を行うとともに,中国大陸以西の涅槃絵画を考應しながら先に分類したそれぞれの形式の成立や発展を解明することが必要である。八相涅槃図については仏伝図(釈迦八相図)との関わりも同時に考慮する必要があり,個々の作例と単独の仏涅槃図との関わりも無視できない重要な問題点である。今後はこれまで知られている作例のほかに,特に新出本を中心にして検討を行いたい。(注)真珠院本涅槃変相図は,その詳細を密教図像学会第11回学術大会(平成3年12月7日,兵庫・中山寺)で発表を行った。-200-
元のページ ../index.html#222