鹿島美術研究 年報第9号
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のA,B, Dに属する分もあるかもしれないが,画題を判断する要素に乏しく,現時遊覧しており,日本三景の一つ,安芸の宮島の厳島神杜を描いたものとわかる。杜殿以外の部分には,厚く垂れ込めた金雲の隙間に海辺の船遊びの様子が左右方向にやや単調に続いている。屏風絵における厳島図の一般的な形式と比べると,島の形がはっきりしないなど構図的にはかなり変則的で,杜殿以外の主要モチーフ(千畳閣,町並み等)にも欠けるものが多い。このことからこれら19面をすべて厳島と見なすことに疑問を持つ向きも無しとはしないが,杜殿の描かれた面とその他の面との間で松・紅葉・舟遊びの人物などのモチーフが共通し,その筆致も同ーと見られることからやはり一括して考えるべきであろう。グループB(紙本金地着色•8面)は4面づつ2つのまとまりに分かれる。ともに大和絵風の風景を描いており,一連のものと思われるが両者の当初の位置的関係は定かではない。作品状態が非常に悪く補箪も多いが,かろうじて山の中の紅葉に囲まれた神社や紅葉の流れる川などが見いだされる。これら一連のモチーフにより本作品の画題が紅葉の名所として名高い大和の龍田であることがわかる。厳島と同様日本の名所を描いているわけだが,こちらの方には人物がまったく描かれておらず風俗的要素はない。グループC(紙本墨圃・12画)は山水図である。全体の中でこのグループのみ水墨画である。襖の改装に伴う面面の不連続や輪郭線の補筆がかなり多い。襖の並び方に関しては,部分的には連続するところもあるが全体の構図はわからない。現在残っているものを見る限りでは滋湘八景や西湖のような特定の画題を示すようには見えないが,雪景の場面とそうでない場面とがあるので四季山水と表現しておく。グループD(紙本着色•4面)には大和絵風の人物の行列する様子が4面にわたって描かれている。画面の下方を右から左に向かって進んでいるが,行列は途中で切れている。周辺には松と桜が描かれ,季節が春であることが示される。また行列の行く手,つまり左端の襖には小さいが桜に囲まれた杜らしきものも見える。本図の画題は貴人の行列あるいは神社の神事と考えられる。残りの12面(紙本金地着色及び紙本着色)はさらにいくつかの手に分かれ,図柄も断片的でつながらない。いずれも大和絵風の風景の1部と見られるところから,上述点では保留としなければならない。これらは未詳分としてまとめ,さしあたりグループEとした。-222-

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