鹿島美術研究 年報第9号
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ジナルの特徴を丁寧にとらえようとしている。要所には焙色を施し,全体に鮮やかな画面となっている。三尊の顔などの肌の部分と,済衣には,金堂壁画の揺法の特徴にみられる,濃淡によって隈取りの階調を持たせた彩色法が再現されている。その制作の具体的な方法を推測lして見ると,おそらく壁画に薄い紙をあて,大まかな線を写し取り,つぎに細部を写生して下図をつくり,その下絵を元に描いたと思われる。下書きの痕跡がまったく見あたらないのはこのためと考えられる。またこのように写し描く作業を繰り返せば,三諄像を写し取ることが主な目的になるので,画面の主要なもののほかは次第に省略される傾向が起こるであろうことは容易に想像できる。実際三諄の像容以外では省略されている点も少なくない。撤定は模写した「阿弥陀浄土変相図」を表装し,壁に掛け,香を焚いて礼拝の対象にしており(「法隆寺金堂壁画佛像記」),当模写本は金堂壁圃の現存最古の桧写であるとともに,礼拝のためという特殊な制作動機を持った模写としても,注目すべき作品と考えるものである。(この項はこの調査のなかで確認の機会を得たので複製模写の一例としてここに紹介したい。14号に掲載分の一部である。)-245-

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