鹿島美術研究 年報第9号
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ささげはなだ第四――—野馬・撫子若松・粟・八重葎・笹・尾長鳥・梅•松林・虹豆・蝶.蜻蛉.第七—藤袴桔梗•松林・柳第九—若松•藤•藤袴孟宗竹・芥子・立葵•藤袴•松林などは明らかに宗達派の意匠を意識したものと思わ第一一—一土域に鶏・水辺の鴨.虹豆・孟宗竹・鶴・菜の花・芥子・立葵合わせており,能装束や蒔絵の意匠を連想させる。題箋はない。見返しは金箔押しで,雷文地に唐草を空摺りで表わす。本紙は,第一および第二が頴色の染紙,第三以降が紺紙で,頴色の料紙には金泥主体の,紺紙には銀泥主体の下絵がほどこされている。本文は綴色の紙には墨書,紺紙には金泥で書かれる。界の部分はすべて金泥。それぞれの図様はほぼつぎの通りである。第二山桜・若松・萩・薄第三芦に競・柳に見危・岩上の競・紫苑第五第六山桜・柳・槍梅第八第十水牛・蝶.蛸蛉これらは金銀泥をたっぷりと含ませた筆で料紙いっばいに,ほとんど没骨描で表わされ,泥の濃淡のむらが,木版摺りのような味わいを見せている。光悦の和歌巻や嵯峨本に見る木版下絵に相通ずる雰囲気を持つ。個々のモチーフにおいても,たとえば,れる。かといって宗達工房に直接かかわる画家の手になるものとは考えがた<,その影闊をうけた町絵師あるいは,御用絵師の作とみなすのが妥当であろうか。ともかく,慶長17,8年における,宗達派の料紙装飾の伝播状況を示す作例として興味深い遣品である。また,紺紙に金銀泥絵を描くことは,この時期,表紙絵にごくふつうに見られるが,それらは線描が主体である。ここでは,本紙に紺紙を用い,金銀泥の没骨拙で大柄な下絵を描く。濃紺を背景にした銀泥の蝶や藤袴は一種幻想的な雰囲気を感じさせ,古代中世の紺紙金泥経の見返し絵などとはまったく異なった世界を現出している。一方,元和2年本の方は,下絵が3つのタイプに分かれる。1■ 7が折帖で,8〜27 が綴葉装。紺紙に金銀泥絵の表紙,朱地に金泥絵の題箋は一連のものである。すべて兎-248-

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