3.ヤングのテクストと図像エドワード・ヤングの詩法は,そのなかにふんだんに「寓意像」を含むものであった。というよりも彼の思弁と道徳はそれによって説かれていたと言える。「死」,「時」,「夜」,「眠り」,「病気」,「沈黙」,「慈愛」,「悲惨」,「運命」,「雄弁」,「音楽」,「理性」,「希望」,「信仰」等が絡まり合って,思想は説かれるのである。これが前ロマンティックな段階での詩法としては伝統的で保守的なものであることはいうまでもない。すでに述べた19世紀半ば頃におこった批判は,この点にもあった。しかし,ブレイクは自分自身の詩のなかではこれほど露骨にアレゴリーを用いることはなかったが,この詩法そのものに対して近代主義的に批判することもなかった。むしろ,彼の象徴主義的な絵画にとっては,アレゴリーは,豊かな可能性を秘めた領野であった。彼の絵画芸術は,近代的な表現性と伝統的なアレゴリー語法とが融合し合ったところで,すぐれて思想的な絵画として意味あるものとして成り立っているのである。そうした側面から『夜想』制作の機会がプレイクにもたらしたものは,すでに伝統的な図像学にたいする知識があったと見られるとはいえ,けっして少なくない。彼は,ここで基本図像から,自分特有のものとなす前の段階のさまざまな変異,転用の過程を体験した。字数の関係からここでこれ以上論じることはできないが,これまで述べてきたことと合せて,『夜想』水彩画集の制作の機会は,ブレイク芸術の成熟ヘの欠くことのできないステップであったことが了解される。-256-
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