2.く動物文様〉にみる影聾関係者)が描かれている。また『ケルズの書」には「聖母子像」「キリストの捕奪」「荒野の誘惑」の具象的人物表現が始めてみとめられるようになる。しかしそうした「挿絵」の導入にもかかわらず,なお後二者の写本に於いても,ケルト装飾文様の緊張感あふれる独自の表現は衰えず,桐密さを増している。これはアイルランド中東部モナスターボイス修道院境内の石造ケルト十字架に於いて,東・西両に具象的傑謁図その他のキリスト教「図像」が表わされているにもかかわらず,南・北面には組紐の「文様」が表わされて,いわば「図像」と「文様」の表現領域が拮抗している情況に比せられる。モナスターボイスの十字架は推定で10世紀の建造であり『ケルズの書』よりさらルト教会圏の美術に確認される。さて,上記の装飾写本に最も特徴的に現われている〈ケルト文様〉は,しかし,ひとり<ケルト〉のみならず,古代末期から中世前半期までのく北方ヨーロッパ〉民族の美術に極めて密接な影特関係をみせる作例の特徴となっている。そうした共通の文様のなかで最もその影粋関係を示しているのがく動物文様〉である。本調査研究では〈動物文様〉の形態的特徴にみられる共通点と差異を,①ケルト系写本,②アングロ・サクソン金工品,③ヴァイキング金工品及び木造教会装飾という三者の比較から明らかにするものである。現存するケルト系装飾写本のうち,く動物文様〉は,7世紀初頭アイルランドで制作された詩篇写本『聖コロンバのカタック』(カタックとはゲール語で戦勝者の意)や,7世紀中葉ノーサンプリアのダーラムで制作された『ダーラム福音書』(A.II.IO)の文字装飾にその初期の表現を留めている。同時期の北イタリア系の写本やメロヴィング朝の写本では伝統的な「魚」や「鳥」か文字装飾に用いられたのに対して,これらケルト系には明らかに「動物(獣)」を意匠化した文様がみとめられ,“北方的要素”を表明している。そして680年頃アイルランド中部ダロウ修道院で創始者聖コルンバ崇敬の徴として制作された『ダロウの書』(fol.192V.)の扉ページ(「カーペット・ページ」と称されている)では,ページの全面にく組紐文様〉と融合した蛇の様なく動物文様〉が絡み合う様に描かれ,同書の装飾美術のうちで最も印象的な文様美を表出したページとなっている。前述した『聖コルンバのカタック』や『ダーラム福音書』と『ダロウの書』とでは,に1世紀のちのケルト・キリスト教美術であるが,“文様表現の生命力”はその後もケ-258-
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