センター後者か,凄絶とも形容できうる動物の体躯のうねりや迷路状の絡みの構造を前面に押し出して,く動物文様〉を聖書写本装飾の重要な文様として自律させている点において,しい“発展”をみせたと言わねばならない。『ダロウの書』に続いて,ノーサンブリアのケルト教会の中心リンディスファーン修道院で698年頃制作される『リンディスファーン福音書』や,ウェールズとイングランドの境界にあってケルト教会の伝統を保持したリッチフィールド大聖堂に伝わる『リッチフィールド福音書』(8世紀)のカーペット・ページでは,より込み入った構図と多彩色の表現によって「動物」の生命感や増殖的力動を発現させるに至っている。このような聖書写本装飾への極めてユニークな「動物文様」の適用は,ケルト写本工房の創意とみなされ,7世紀〜8世紀初頭の西ヨーロッパ写本装飾の様式に,古代(ローマ)末期の写本の影開を受けた具象的「挿絵」に拮抗する北方の抽象的「文様装飾」を登場させるという写本に登用されたく動物文様〉は,ひとりケルト民族の古代美術の.遺産ではなく,ブリタニア南東部から侵入したアングロ・サクソンと,スカンジナヴィアに定着し後にブリタニアとアイルランドに侵攻及び定住混合したヴァイキングの美術に優れた作例が遣されている。く動物文様〉とは,すなわち北ヨーロッパの民族の美術の共通の遺産であり,おそらく遠くはスキタイのく動物闘争文様〉を源流のひとつとする北方民族にとって最も重要な美的謡匠であるが,7i仕紀のケルト写本の“仲介”を得て始めて,北方古代と中世の美術かく動物〉という共通の謡匠のもとに“北方的表象”を保持しえたと考えられる。本調査では,『ダロウの書』のfol.192Vの動物装飾に先行する最も重要な作例――-『黄金の留金』,アングロ・サクソン美術の出発を画したサットン・フー出土の宝物みならず,ダブリン,アイルランド国立博物館,ロンドン,大英博物館,エジンバラ,スコットランド考古博物館等に所蔵される約28点の動物文様金工品を実見し,その文様構成と形態のディテールを素描して既述したケルト写本装飾に照らし,様式の変化を記録した。また調査の第二段階として,以上7世紀〜8世紀初頭のケルト及びアングロ・サクソンの動物文様から分離発展したヴァイキング美術の木造大型船の動物文様浅浮彫り(ノルウェー,オスロ,ヴァイ共ング船博物館蔵さらにソグネフィヨルドの奥地ウルネス,ボルグンド,ベルゲン近郊フォンタフト,な役割を果たしたことになる。しかしながらケルト系「ゴクスタド船」「オーセベリ船」),の-259
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