以上3地点に保存される11-12世紀木造教会の外壁・内壁に彫刻された動物文様を実見・調査し,特にアイルランド12世紀の写本・金工品(『聖パトックの鐘型聖遺物庫』アイルランド国立博物館蔵)との強い影評関係を示す「ウルネス様式」(UrnesStyle)への発展をみとめた。この「ウルネス様式」の名祖となった上記ウルネス木造教会の北面外壁には,北方神話に主題を採る“世界樹の根を噛む鹿”と,ブドウ唐草様の“世界樹”の技・葉・災及びこの植物意匠に紛れるかたちで浅浮彫りされているが,ケルトの緊縛的な組紐文様の形態から脱れて,余白を許容するより流麗な曲線と化した動物の“体艦”が特徴で,動物意匠がかように植物的フォルムと同化しているものは,北方においてウルネス様式に初めてみられるものである。しかしこのウルネス様式の動物文様もひとりノルウェーの“ロマネスク”様式に留まらず,既述したアイルランドの12世紀の金工品に形態的質において共に最高レヴェルを保持する作例がみられることは,北海,アイリッシュ海を隔てながら,7世紀以来ケルト,アングロ・サクソン,ヴァイキングが,侵攻・交易・キリスト教布教とその受容を通して人的・物的・文化的交流を遂げた背景を浮彫りにする。『ダロウの書』〜サットン・フーの留金〜ウルネス木造教会,以上3者の動物文様に共通する細部の形態に,①絡み合い噛み合う相互の体謳,②<ちばし状の口,③関節を渦巻状・涙型の形状で強調,④房状の“ひづめ”,⑤目の強調(丸型・涙型)という特徴が,500年の時の経過に風化・衰化せず,初期キリスト教美術の重要な一角を担ったことが,本研究調査(以上アイルランド,イギリス,ノルウェー,スウェーデンの広範囲に渡る調査を可能たらしめて頂いた貴財団の御助力に感謝申しあげたい)によって,確認された。ウルネス木造教会浅浮彫りに明らかなように非キリスト教的主題を北方の教会装飾は受容するが,その出発点にハイバーノ・サクソンないしケルト系写本『ダロウの書』における異教的動物文様の登用の創意か在ったこと,またく動物文様〉が広く北方民族の文化的表象であったことが本調査の各実見で再確認された。-260
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