② カナダ国立文化財研究所における「和紙の紙質強度と化学殺虫・殺かび剤の影響に関ス40℃にもなるほどであるから,冬の間に害虫は死滅し,また,日本に比べ乾燥してする研究」研究者:財団法人文化財虫害研究所杉山真紀子パルプの生産量の最も多いカナダでは,紙質類に関するさまざまな科学的研究が盛におこなわれている。国立の研究機関や大学での研究室での研究報文は世界的にも評価され,新しい製法の開発や歴史のある紙質資料の保存に貢献している。私は,オタワに所在するカナダ国立文化財研究所において,「ゼロスパン法」という日本ではあまりおこなわれていない紙質強度測定方法により,日本製の表具用和紙が,もし殺虫の目的のために化学薬剤が使用されて燻蒸された場合,その後の紙の性質の強度に関して,カナダ側のスタッフと共同研究をおこなった。日本の気候は温暖多湿であるため,文化財の保存について虫害やかびの害の防止のためには出来る限りの注意か払われている。一方カナダでは,冬の気温が摂氏マイナいるので,かびの害もあまりないと思っていた。しかし,博物館や美術館そして図書館や古文書館などの館内では,年間を通じて温度約22℃,そして湿度は55%前後に保たれているため虫の生育に好都合となり,カナダでも防虫対策は非常に関心のあるテーマとなっているのである。カナダの多くの博物館の修復室では,東洋の絵圃や掛け庫庸はもちろんのこと,西洋の現代版画や,グラフィックアートの裏打ちにも,日本製の手漉き和紙が使用されている。そこで,本研究はカナダ国立文化財研究所の修復室で使用されている日本の手漉きコウゾ紙を研究の対象とした。日本の博物館で殺虫・殺かび対策のために使用されている燻蒸剤であるエチレンオキサイドを使用し,通常の燻蒸方法で,24,48, 72時間燻蒸されたコウゾ紙と燻蒸されでいないコウゾ紙を「ゼロスパン」という測定機械を使用してそれぞれの引っ張り強度値を比較した。紙の強度を測定する方法には,日本では,日本工業規格(JIS)として,引っ張り強度試験方法と耐折強度試験方法とがある。この中の引っ張り強度試験方法とは,測定機械に取り付けられている2個のつかみに紙の試験片をはさみ,このつかみに一定の荷重をかけ,つかみを引っ張り試験片が切れる時にかかる力の強さを測定する方法で-279-
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