鹿島美術研究 年報第9号
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に委ねたため,ここに紹介することはしない。この「鹿島プロジェクト」については,当初から作品調査の重要性は認識されていても,そのデータベース化はいくぶん過小評価されていたかに思われる。実際の一ヶ月余の作業を通じて明らかになったことは,作品調査自体は,研究者が派遣されるだけで十分所期の目的を果たすことができる。しかし,その結果生まれる調書のデータベース化については,多くの問題を残している。ひとつは,美術館にこの入力作業に専念できるスタッフがいないことである。ただ,これは,ある程度物理的な問題なので,ボランティアやアルバイトのスタッフを確保すればクリアできるし,実際美術館でもそうした方策を準備しつつある。しかし,より本質的な問題は,このデータベース化に関わり,そうした日英両用プログラムとデータのメインテナンスを行い,かつ多様な用途にデータを加工したりする知識や経験を持った方が美術館にいないことである。もちろんコンピューターそのものについては詳しい方が他部門だがおられる。しかし,日本語処理コンピューターについての経験者は現在館内には皆無である。かつ東洋部の常勤スタッフで,今後これを利用する方は多いだろうが,こうしたデータベース構築に十分な知識を持った方はいない。もちろん,最終的には美術館のきわめて有効な道具として,これが活用されていき,当然操作やデータ処理に習熟した人が生まれるのはまちがいないし,そうあってくれなくては困るわけである。ただ,ここ二三年の間は,美術館側だけでこのデータベース作成を行っていくことは不可能に近いように思われる。日本から派遣されるメンバーにもこの方面に知識経験を有する方がいる。しかし,彼らも今回の泉氏同様,調書の作成に手いっぱいで,そのうえにデータベースのメインテナンスを課すのは気の毒だし,またそうタイミングよい時期に派遣されるとは限らない。また,美術館に対して常時このデータベースメインテナンスについての助言ができるシステムが望ましく,別々の人間が別々の機会にこのデータベース修正に関わる形は,望ましいものではなかろう。今回,報告者はその最初の構築に関わった関係上,今年度中はモース女史と常時連絡を取り,データベースの基盤を固めることに鋭意協力するつもりである。しかし,その後については善意の協力の域を超えるし,事業の正式なメンバーそれぞれの調査2 本プロジェクトの課題-286-

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