0特別講演者マイケル・フリード教授について② シンポジュウム『19世紀末における絵画と文学一「物語性」と「リアリティー」を中(Art & Literature toward the end of the nineteenth century in Japan & the United States regarding "narrativity" & "reality") 心に』報告者:大阪大学文学部教授日米文科系学術交流センター長今回の会議は,『近代形成期の日米の絵画・文学における「物語性」と「リアリティ」』という題目のもとに,1992年3月20日,東洋陶磁美術館にて開催された。まずこの表題の意義について説明しておく必要があるだろう。現代の芸術史においては,かつて想定してきた統一的で進化論的な時代様式という概念の妥当性が疑われるようになっている。様式という概念そのものが,芸術の中心的位置から退いてしまったのである。もはや我々は一枚の絵画作品を,様式の歴史の所産として説明することはできないし,その必要もない。そのような状況のなかで,絵画のイメージとしての性質に注目し,絵画の構造の「物語性(ナラティヴ)」を問題とする方法が模索されるようになってきている。今回の会議における「物語性」への言及はこのような立場からなされている。つまり,絵画を叙述的芸術として捉え,その構造を「読む」とき,我々は,様式的な術語を使用することなく,真に歴史的な形態としての芸術形態に迫ることができるのである。そしてさらに,絵画に限らず,一つの時代の芸術の美的構成が明らかになるのである。このような今日の美術史学的状況を背景として,今回の会議では19世紀後半期の日米の芸術作品を検証することになった。そしてこのテーマに最もふさわしい美術史家であるマイケル・フリード教授をアメリカから招き,特別講演をして戴くことになった。講演内容の報告の前に,フリード教授について少し紹介しておこう。彼は国際的に最も注目されている美術史家の一人であり,現在,ジョンズ・ホプキンス大学のJ・R・H・ブーン講座人文学教授,人文学研究所所長を務めている。彼の美術史の方法は,主に反様式論の文脈から理解することができるだろう。先に少し述べたように1980年代を中心に,従来の様式史としての美術史の限界と「新しい美術史学」の可能性が盛ん辻成史-298-
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